スポーツ

野口みずき父「五輪には行けなくてもいい。完走してくれれば」

アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずき。彼女はロンドン五輪出場を目指し、1月29日の大阪国際マラソンに出場する予定だったが、直前のケガで出場を断念。3月11日に行われる名古屋ウィメンズマラソンにかけることとなった。

そんな野口に対し、父親の稔さんはどんな思いを抱いているのか。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。

* * *
野口が北京五輪の直前、左足付け根部分の故障によって出場を断念せざるを得なくなったのは、代わりの選手を用意できないタイミングだった。そのため野口とシスメックスの監督・コーチ陣には批判が集まった。その時稔は、円谷幸吉のことが頭をよぎった。円谷幸吉とは、東京五輪の男子マラソンで銅メダルを獲得し、そののち「もうすっかり疲れ切ってしまって走れません」という遺書を残して自死したランナーだ。

「あの子は、金メダルを目標に走ってきたわけではない。ただ単純に走ることが好きだということと、支えてくれる監督やコーチ、会社のみなさんを喜ばせたいという一心だったんです。ケガは自分のせいなのに、藤田(信之)監督(現在は退任)や廣瀬(永和)コーチ(現監督)のせいのように言われることが耐えられなかったはずなんです。その時ばかりは私も『もう普通の子になって、うちに帰ってこい。お母さんの胸に飛び込め』という言葉が出かかりました」

稔に対しては、何度か取材を行ったが、いつも話の途中であるにもかかわらず、「もうよろしいですか?」と突然席を立ち、立ち去っていく。一度に胸襟を開く時間を決めていて、その時間に達すると心をシャットダウンするかのようだった。

不器用な人なのだろう。以前に聞いた話との矛盾点を訊ねると、「私には学がありませんから」と自身を卑下するのだ。そういう父だからこそ、野口は慮ってあえて父と距離を置いてきたのかもしれない。

大阪国際マラソンの欠場が報じられる直前、稔は私にこう話していた。

「オリンピックには行けなくてもいい。大阪では、とにかく完走さえしてくれればいい。北京のあとのみずきは、地獄の中を生きているようなものだった。私は初マラソンも、アテネも、ゴールシーンを見ていない。今度はしっかり娘の姿を見届けたい」

五輪出場権獲得への道は、3月11日の名古屋ウィメンズが残されている。ケガについて孤高のランナーは軽症を強調し「私は諦めません!」と気丈夫を装っているが、名古屋のスタートラインに立つことはできるだろうか。

幼少から走り続けてきた野口にとって、両親をはじめこれまで支えてくれた人々への「返礼の旅路」は、まだ終わってはいない。

※週刊ポスト2012年2月10日号

関連キーワード

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン