ライフ

しなびた野菜を50℃の湯で洗うと鮮度が蘇る効果が発見される

50℃の湯に浸すとしおれた春菊が張りを取り戻す

 しなびた野菜を50℃の湯で洗うと、途端に鮮度が蘇る――。驚きの効果を発見したのは、蒸気技術工学の専門家で、スチーミング調理技術研究会代表の平山一政氏(75)。早稲田大学社会システム工学研究所の研究室長だった平山氏は、100℃以下の低温で蒸す調理法「低温スチーミング」を開発。この研究の過程で発見されたのが、「50℃洗い」という“奇跡”だった。

「低温蒸しのテストを繰り返すうち、50℃で蒸すと野菜が元気になるという不思議な現象に遭遇したのです。そこで50℃の湯で洗ってみると、水洗いより土などの汚れがよく落ち、しなびた葉も驚くほど蘇った。野菜嫌いの原因にもなっているアクや臭みまで抜け、トマトなどは糖度も上がりました」(平山氏)

 食品全般に共通するという、驚異の変化を検証した。

 野菜の「50℃洗い」は、ボウルに50℃の湯を注ぎ、素早く野菜全体を湯に浸し、1分から3分間程度洗う。50℃は風呂の温度より高く、手をつけて我慢できるくらいの熱さ。専用の温度計を用意して測りながら洗うのがいい。洗っているうちに温度が下がってしまうこともあるが、43℃以下になったら湯を足して温度を保つ。

 検証ではまず、ほうれん草を使用。水分が抜けたようにくたっとした葉を湯に入れた後、茎も湯をくぐらせて、じゃぶじゃぶとすすぐように洗う。葉に張りが出てきたように感じたところで湯から上げる。緑の色も濃くなり、葉脈がしっかり浮き出てきた。

 変化は一目瞭然。元のほうれん草とは見違えるほどの鮮度。味を確認する。洗う前のほうれん草は、独特のエグミと青臭さを感じたが、「50℃洗い」後のほうれん草には噛みしめてもそれが感じられない。葉は柔らかく、茎はシャキシャキと瑞々しい。

 レタスは半分に割って洗った。しんなりしていた外側の葉は湯から取り上げた直後はくたっとしていたが、しばらくするとほうれん草同様に瑞々しさを取り戻し、食感にも差が出た。

 春菊は葉の蘇り方が顕著。よれて重なっていた葉が「50℃洗い」で、1枚ずつがピンと立ってくる。色も青々となり採れたてのような立派な葉になった。味は雑味とアクが抑えられ、食べやすい。

 さらに、水っぽくなるので洗わないほうがよいとされる生しいたけも、水洗いではないためか、こんもり膨らんでぷりぷりに。匂いは松茸に近い香りが。かさの色も濃くなった。

 今回検証した野菜においては、「50℃洗い」の違いがはっきりと確認できた。そのメカニズムを平山氏が解説する。

「野菜がしおれる原因は、細胞の水分がなくなるためです。収穫後、保有成分は徐々に放散され乾燥を始めますが、水分蒸発を抑えるため表面の気孔は閉じた状態になっています。その状態で50℃の湯に入れるとヒートショックで葉の表面の気孔が開き、失われていた水分が瞬時に吸収されてシャキッとした収穫直後のような状態に戻る。50℃くらいの湯は水分子の運動が盛んなのに加え、野菜との温度差がかなりあるため、繊維質やでんぷん、たんぱく質に速やかに浸透するのです」

 昔から切り花を長持ちさせるために、茎の切り口を80℃程度の湯につける「湯あげ」という方法があるが、それと同じメカニズムであると考えられる。

撮影■太田真三

※週刊ポスト2012年5月18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
グラドルデビューした渡部ほのさん
【瀬戸環奈と同じサイズ】新人グラドル・渡部ほのが明かすデビュー秘話「承認欲求が強すぎて皆に見られたい」「超英才教育を受けるも音大3か月で中退」
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
無名の新人候補ながら、東京選挙区で当選を果たしたさや氏(写真撮影:小川裕夫)
参政党、躍進の原動力は「日本人ファースト」だけじゃなかった 都知事選の石丸旋風と”無名”から当選果たしたさや氏の共通点
NEWSポストセブン
セ界を独走する藤川阪神だが…
《セの貯金は独占状態》藤川阪神「セ独走」でも“日本一”はまだ楽観できない 江本孟紀氏、藤田平氏、広澤克実氏の大物OBが指摘する不安要素
週刊ポスト
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン