白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏は、人間の認知能力低下における男女差に注目する。以下、白澤氏の報告だ。
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認知症の中でも物忘れを主要症状とするアルツハイマー病は、70歳前後で症状が始まるが、実は脳の病変自体はその20年も前から進行している。しかし、認知機能の低下が何歳から始まるかに関しては、知られていなかった。
フランス国立衛生医学研究所の疫学・公衆衛生研究センターのアルシャナ・シンマヌー博士らは「認知機能の低下が始まる時期を特定することは、医療介入をどの年齢で開始するかを決定する上で極めて重要だ」と考えた。
そして、45歳~70歳の公務員で、1985年にホワイトホールIIコホート研究(1985 年より英国人公務員を対象に実施された臨床研究)に登録した男性5198例と女性2192例を、1997年から10年間観察する研究をロンドン大学との共同研究で実施した。
観察期間中に認知機能を3回測定して認知機能の低下を評価した。認知機能は【1】推論能力、【2】記憶力、【3】音声の流暢性(Sから始まる単語を可能な限り書き出す能力)、【4】語義の流暢性(動物の名前を可能な限り多く書き出す能力)、【5】ボキャブラリーの5項目について、それぞれ評価した。
その結果、5歳刻みの各年齢層でボキャブラリーを除いた全ての認知機能スコアが観察期間の10年間に低下していることが明らかになったのである。
特に推論能力の低下は、女性では45~49歳と50~54歳の年齢層でより顕著になり、男性では60~64歳と65~70歳でより顕著だった。女性の推論能力の低下が顕著だった時期は更年期と一致することから、女性ホルモンの分泌低下が影響を与えたと考えられる。
※週刊ポスト2012年6月8日号