国際情報

日本がネット重視になれば「SNSいじめ」米国並みになる恐れ

 SNSで交わされる会話は「いいね!」だけではない。SNS先進国・米国では、10代を中心にSNSを介した「いじめ」が社会問題化している。米国のティーンエイジャー(13~17歳)の69%がSNSを利用し、そのうち88%がサイト上でひどいことを言ったり、あからさまな無視などのいじめを見たことがあると答えている。

 そして15%が自分がいじめや暴言の標的にされたことがあると答えた。そして、その手法は、海を越えて日本に上陸。在米ジャーナリストの武末幸繁氏が解説する。

 * * *
 米国で「SNSいじめ」が深刻化する一方、利用者が急増している日本はどうか。日本で「ネットいじめ」が社会問題化してきたのは、2007年前後のことである。ある特定の学校の話題のみを扱う非公式コミュニティサイトである「学校裏サイト」や匿名掲示板のスレッドでいじめ対象者の誹謗中傷を行なう手口が一般的だった。

 2007年7月には、兵庫県の私立高校の男子生徒が自殺するという事件が発生している。この男子生徒は特定の人物からメールでの金銭要求が行なわれ、「学校裏サイト」で自殺した男子生徒がいじめられている動画を公開したり、裸の写真を掲載していたことが発覚、大きな話題となった。

 ルポライターで『学校裏サイト 進化するネットいじめ』(晋遊舎刊)の著者、渋井哲也氏によれば、ティーンエイジャーの携帯所有率と比例してネットいじめはさらに増えているという。

 2009年の文部科学省の調査によれば、小学生の24.7%が携帯を所有。中学生では45.9%、高校生では95.9%の所有率となる。「学校裏サイト」も携帯電話からアクセスし、モバゲー、ミクシィなどのSNSのアクセスも携帯電話だ。

 ネットいじめには2つのパターンがあるというのは前出の渋井氏。

「リアル社会でいじめられていて、それがSNSでもいじめの対象になるもの。もうひとつはリアル社会ではいじめられていないのに、SNSの塾や学校のサイトで何らかのはずみでいじめの対象になり、それが助長されて現実社会の中でもいじめの対象になるというパターンがあります。

 リアルコミュニティの学校でいじめられても、学校を離れ家に帰ればいじめは途切れた。しかし、ネット社会では家に帰ると今度はSNSを通して24時間いじめられ、逃げ場がない状況に追い込まれる」

 SNSの学校・塾の掲示板で援助交際しているという嘘の書き込みをされたある女子中学生は、自殺には至らなかったがリストカットをするようになってしまった。高校進学後もリストカットは続き、ついには高校を中退。社会復帰できない精神状態になっているという。

 SNSいじめによる自殺者が増加する米国では昨年2月、ホワイトハウスでいじめに向けた会議が開催された。その会議ではフェイスブックが、いじめと見られる書き込みや画像などを見かけたら、すぐにフェイスブックや親、教師などに通報できるシステム「ソーシャル・レポーティング」など、いじめ防止策を発表。また、現在では全米45州がなんらかのいじめ防止法を導入している。

 日本にフェイスブックが上陸し、普及し始めたのはつい最近のこと。MMD(モバイルマーケティングデータ)研究所の昨年11月の調査によれば、日本のフェイスブックユーザーの半数が2011年になってからの利用であり、ユーザーの7割がスマートフォンからのアクセスだという。

 スマートフォンのティーンエイジャーへの普及は広がり、SNSにも簡単にアクセスできる環境の中、今後の「SNSいじめ」に日本はどう対処していくのか。

 佛教大学教育学部教授の原清治氏は日本のネット重視が米国並みになり、同時にSNSいじめも米国並みになることを危惧する。

「日本も米国社会のようなSNSいじめ増大の時代到来を覚悟した対策が必要です。フィルタリングやアクセス制限などは現在も行なわれていますが、これは小学校の低学年に有効なだけ。ネットリテラシーに関する啓蒙活動を活発に行ない、さらには運営者の自主規制が必要になるでしょう」

※SAPIO2012年6月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン