国内

1個5250円~の電球 震災後には半月で3000個の注文が殺到

 月に10個売れればよいほうだった1個5250円する電球に、震災後は半月で3000個もの注文が殺到した。加美電機の『レス球』だ。この電球に、いかにして爆発的な注目が集まったのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が報告する。

 * * *
 また暑い夏がやってくる。思い返せば昨年は、いきなり告知された「計画停電」に、オタオタさせられた。単三電池を買おうにも、売り切れ。非常用ラジオも懐中電灯も蝋燭も、我が家には無かった。停電になるとマンションの水道も止まる、と言われてパニックに。私のように大慌てした人、たくさんいたのではないだろうか。

 東京の暮らしで、「停電」なんて死語だったからだ。東日本大震災、原発事故が起こるまでは……。

 ある日を境に突然、別の世界が開ける商品もある。『レス球』は月に10個売れればよいほうで、鳴かず飛ばずの状態が続いていた。しかし、2011年3月11日を境に突然、「半月で3000個」もの注文が殺到した。製造する側は大慌て。在庫も部品もなくなり、一時生産中止せざるをえないほどの勢い。

『レス球』は一見するとただの電球だ。しかし、手にとると、すぐに違いがわかる。ずっしりと重たい。バッテリーやセンサーが内蔵されていて、突然の停電でも光り続けるのだ。
 
 地震でガラスが割れたり、家具が倒れて部屋の中がメチャメチャになっても、天井に付いている。しかもプラスチック製だから壊れにくい。ソケットからはずせば、そのまま懐中電灯に早変わりする。

 LED電球『レス球』はその名の通り、“レスキューグッズ”として大注目を集めた。でもまさか、日本で死語だった「停電」のリスクを予見していたのだろうか?

「たしかに発売当時、『日本には停電なんてないから新興国へ持っていったら?』と言われました」と、兵庫県多可町の加美電機・池田一一(かずいち)社長(68歳)は苦笑いする。

 発売は2009年のこと。当時の日本は「停電」どころではなかった。煌々とライトアップされ、光の洪水のような街角。電気は使いたい放題。

 ではそもそも「停電対策」として開発するきっかけはどこにあったのでしょう?

「17年前の阪神・淡路大震災です。未明に発生した地震で真っ暗になった。ぐしゃぐしゃになった部屋の中で身動きがとれずにとても困った、という声が、知人や取引先から聞こえてきたんです」

 停電の時は家の中だけではなく、町ごと暗闇に沈む。「そんな時でも灯り続ける照明があれば」という池田社長の試行錯誤が始まった。

 しかし、電子回路やプリント基板の実装を手がけてきた同社に、照明器具のノウハウは皆無。しかも、LED電球そのものがまだ存在していなかった時代。

「2003年頃、やっと白色LEDが市場に出てきたんです。それを電池と組み合わせるアイデアでしたが、当時は部品がとても高くて、1個8000円という値段にならざるをえませんでした」

 神戸市で開かれた、地域の業者が集まる拡販相談会に持って行くと、冷たい反応が返ってきた。

「『そんな高い電球を誰が買うんだ、その金で懐中電灯を10個買えばいい』と大学教授に笑われてしまいました。隣で聞いていた震災体験者が、『いや、地震で停電したら大混乱になって懐中電灯は壊れるし、探し出すのも無理ですよ』と、実感から反論をしてくれたのですが、その教授はまったく聞く耳を持たなかったね」

 頭ごなしの批判に腹が立った。1000個分の試作と部品をすべて廃棄処分にした。それから3年が経ち、LEDの価格が下がり、再びチャンスが巡ってきた。

「いったんは諦めた開発ですが、世の中に求められているという確信はあった。もう一度、やってみようと」

 2009年、念願の商品化。価格も5000円台まで下げ、ネット通販で売り始めた。細々と直販していたところ、大地震が発生し、爆発的な注目がきたのである。

※SAPIO2012年7月18日号

関連キーワード

トピックス

17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト
本誌『週刊ポスト』の高利貸しトラブルの報道を受けて取材に応じる中条きよし氏(右)と藤田文武・維新幹事長(時事通信フォト)
高利貸し疑惑の中条きよし・参議院議員“うその上塗り”の数々 擁立した日本維新の会の“我関せず”の姿勢は許されない
週刊ポスト
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
高橋一生と飯豊まりえ
《17歳差ゴールイン》高橋一生、飯豊まりえが結婚 「結婚願望ない」説を乗り越えた“特別な関係”
NEWSポストセブン
西城秀樹さんの長男・木本慎之介がデビュー
《西城秀樹さん七回忌》長男・木本慎之介が歌手デビューに向けて本格始動 朝倉未来の芸能事務所に所属、公式YouTubeもスタート
女性セブン
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
女性セブン
フジ生田竜聖アナ(HPより)、元妻・秋元優里元アナ
《再婚のフジ生田竜聖アナ》前妻・秋元優里元アナとの「現在の関係」 竹林報道の同局社員とニアミスの緊迫
NEWSポストセブン
大谷翔平(左/時事通信フォト)が伊藤園の「お〜いお茶」とグローバル契約を締結したと発表(右/伊藤園の公式サイトより)
《大谷翔平がスポンサー契約》「お〜いお茶」の段ボールが水原一平容疑者の自宅前にあった理由「水原は“大谷ブランド”を日常的に利用していた」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
NEWSポストセブン