ライフ

ナンシー関への愛情溢れる評伝で、しかも最良の解説書が発売

【書評】 『評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」』/横田増生著/朝日新聞出版/1575円(税込)

 * * *
 徳光和夫を「喜怒哀楽で食ってる男」と表現し、文に添えた版画は号泣する徳光の顔と「う~~」という泣き声。もう15年余り前の作品だが、今でも唸らされる。

 テレビ番組や芸能人について書くコラムニストで、あれほどの鋭さと毒とユーモアを備えた書き手は後にも先にもいない。「消しゴム版画家」ナンシー関。彼女が39歳で虚血性心不全により急死したのは、10年前の6月だった。

 著者は、彼女が残した膨大な言葉を時系列に沿って読み込み、家族、友人、仕事関係者、果ては消しゴムを買っていた文具店の店員に至るまで実に多くの人々の証言を集めた。彼女に関する初の評伝だ。

 幼い頃から言葉の覚えが早く、記憶力が良かったこと、小学生の頃から冷静で、周囲から一目置かれる「大人」だったこと、早くも高校時代に人間観察の鋭さを認められていたこと、小学校4年生の頃から急激に太り、20歳の頃には結婚を諦めていたこと、極端な弱視で、メガネを外すと間近な人の顔も判別できなかったこと……。

 そうした事実を拾った末に、著者は2つの重要な問題を考察する。ひとつは、売れっ子になったのと引き換えに寿命を縮めていく過程。もうひとつは、〈ナンシー関の外見は、その仕事に影響を与えたのか否か〉〈ナンシーの女性性をどうとらえるのか〉という問題だ(著者の解釈は本書に譲るが、あの毒は体型コンプレックスの裏返しだ、といった単純な話ではない)。

 著者は自分の解釈を前面に押し出すよりも証言を丁寧に再現することを心掛け、ナンシーの代表的な文章、発言も的確に引用してわかりやすく解説している。対象への愛情溢れる評伝であると同時に、最良の解説書にもなっている。

※SAPIO2012年7月18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン