国内

復興予算15兆円のうち約6兆円が使われず1兆円を役人ネコババ

 1年半前、大震災と津波の惨劇を目の当たりにした国民は、「東北を必ず復興させる」と誓い合った。政府は震災復興のため、昨年度は3次にわたって約15兆円もの復興補正予算を組み、今年度分と合わせて総額19兆円(当面5年分)の震災復興予算を東北に集中的に投下することを決めた。

 その財源をまかなうために来年1月から25年間にわたる所得税引き上げと10年間の住民税引き上げ(2014年6月実施)という、異例の長期間の臨時増税が実施される。「復興財源の足しにする」ために子ども手当制度の廃止(減額)、高速道路無料化実験の廃止、国家公務員の人件費削減などが決まったことは記憶に新しい。それでも、国民は「欲しがりません復興までは」と負担増に堪える覚悟をした。

 ところが、現実には復興予算の多くが被災地には届いていない。国の予算は制約ばかりで被災地が本当に必要としている事業には、使えない仕組みになっているからだ。地元自治体は津波で水没した地域の地盤かさ上げや流された公共施設の建て替え、小中学校の耐震工事、避難所までの道路整備などの予算を要求したが、「施設の耐震化などは別の予算がある。復興と関係の薄い事業に配分したら納税者の理解が得られない」(復興庁幹部)と審査を厳しくして、大半は却下された。

 苦労して予算をもらうことができても、復興にはつながらない。震災被害が大きかった気仙沼市や南三陸町などがある宮城6区選出の小野寺五典・衆院議員(自民党)が語る。

「被災地の自治体は壊滅状態だから税収もない。そこで復興に自由に使えるという触れ込みの復興交付金が創設されたが、使途が40事業に限定され、土地のかさ上げすらできない。気仙沼では水産庁の復興事業で漁港周辺の地盤を高くしたが、そこに以前あった商店を建てるのはダメだといわれた。これでは町の復興には使えません」

 その結果、昨年度の復興予算約15兆円のうち、4割に相当する約6兆円が使われずに余った。自治体への復興交付金も8割以上が残り、前述の被災者向け復興住宅の整備予算に至っては1116億円のうちわずか4億円しか使われていない。総額19兆円を注ぎ込む復興は、絵に描いた餅だった。

 大新聞・テレビはそうした復興予算の使い残しの原因は自治体の職員不足や縦割り行政の弊害だと報じているが、真実を見ていない。霞が関の役人は、わざと復興のカネを被災地の自治体には使えないように制限している。

 その証拠に、余った復興予算のうち「不用額」とされた約1兆円は、今年度から新設された「東日本大震災復興特別会計(復興特会)」に繰り入れられ、各省庁に分配される。この復興特会の使途を見ると、復興とは名ばかりで、国民・被災者が知らないところで役人の掴みガネとなっていた。不用とされたカネが、シロアリ官僚の餌に化けたのだ。では、役人のネコババの実態を見ていこう。

 シロアリ官僚たちがまず目をつけたのが、官僚利権の王道である「ハコ物建設」だった。 復興特会には「全国防災対策費」という名目がある。「東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策」に該当すれば、被災地でなくても復興予算が受けられる仕組みだ。役人たちは狡猾にこれを利用した。

 国交省は、復興特会から36億円を使って政府の官庁舎を改修する計画を立てた。そのうち12億円は、内閣府が入る霞が関の合同庁舎4号館の大規模改修に使われる。

「昭和47年に建てられた施設で耐震不足なので、免震構造に変えます。他に秋田合同庁舎、和歌山県の田辺合同庁舎の修理、他に名古屋や釧路など全国の港湾合同庁舎の津波対策に使います」(官庁営繕部管理課・予算担当企画専門官)

 一見、もっともな理屈だが、騙されてはいけない。国の施設の建て替えが進む一方で、肝心の被災地の整備には、予算が付いていないのである。石巻市役所は1階部分が水没し、5・6階の吊天井が壊れるなどの被害が出たが、「市庁舎改修工事」の費用はわずか2900万円。市の管財課担当者が、使い道を明かした。

「これは改修予算ではなく、加湿器と駐車場でのLED電灯の設置予算です。市庁舎を改修する予算は現段階ではありません。復興交付金には市庁舎の改修予算はメニューに入っていないので、付けられないのです。自治体が自腹で改修なんかしたら倒産してしまいますから、国に予算を出してもらう仕組みを検討中です」

 実は同じ石巻市にある国交省の港湾合同庁舎には、今年4億円の改修費用が計上されている。国の出先機関と自治体で、これほどに差がつけられる理由がどこにあるのか。復興予算を決定した安住淳・財務大臣は石巻市出身である。昨年7月、安住氏はテレビ番組でこんな発言をしている。

「被災地の人は『助けてけろ』というが、こっちだって助けてもらいたい。国会議員が悪いなんて感情的だ。被災地の人のストレスが私のところにきて、それが総理に伝わってしまう」

 その1年後、彼が決めた予算は、まさに被災地を助けず、こっち(中央の官僚たち)を助ける政策だった。

 その財務省の外局、国税庁のやり口も酷い。東京の荒川税務署など、被災地以外の税務署3施設の改修工事に5億円を計上。荒川が選ばれた理由は、「今回の地震でどこか崩れたとか、老朽化が著しいというわけではなく、耐震化工事に着手しやすい税務署だということ」(国税庁会計課)だそうで、ここでも被災地が後回しにされた。被災した大船渡税務署職員の嘆きを聞こう。

「税務署の建物は津波で浸水したため、現在は法務庁舎の敷地に仮事務所を設けています。プレハブ造りの簡素なものなので、空調の効きが悪く、場所もかつてに比べ手狭ですが、もとあった建物が整備されてから移転となるので、移転はしばらく先になりそうです」

■福場ひとみ(ジャーナリスト)と本誌取材班

※週刊ポスト2012年8月10日号

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン