国際情報

殺したい奴はカンボジアへ 電話1本で殺してくれるとヤクザ談

 昨年10月、暴排条例が全国で施行され、シノギを開拓しようとする日本の暴力団が海外に新たな拠点を求めている。カンボジアで取材をしたフリーライターの鈴木智彦氏は、現地である暴力団の親分に出会った。鈴木氏が海外で暴力団が手がける新しいシノギについて報告する。

 * * *
 彼の渡世名……指定暴力団幹部としての通名は、日本でも平凡な名字なので、仮に田中とする。田中はカンボジアを舞台にした投資詐欺の黒幕で、巨額の利益を上げているという。会うのは1年ぶりだった。カンボジアに来るきっかけをくれたのは田中だ。暴力団は金の匂いに敏感である。

 金のためなら平気で人を恫喝し、暴行し、時には命さえ奪って、ためらいなく資産を奪う。長年の暴力団取材で学んだ定理を再確認したのは、東日本大震災から1か月経った頃だった。重機で被災地のATMを強奪し、窃盗団を組織し、被災者の留守宅から、現金や貴金属を盗み出している暴力団員がいると聞き、現地入りして取材をしてみると、かつて取材したことのある田中だったので驚いた。実話誌の取材では「堅気さんには迷惑をかけない」と語っていたが、こちらもそんな言葉を信じるほどウブではない。

 取材のオーケーは簡単に出た。その時のインタビューの場所はかつて取材した事務所だった。

「震災は俺にとっては棚からぼた餅だった。暴力団排除条例が出そろうまでが勝負だ」

 田中は火事場泥棒を行なう一方、復興利権に食い込もうとしていた。肝心の取材は30分で終わった。強引に「ヤクザは金になりゃ何をやってもいいんだ。NGはパクられることだけだ。震災の次に狙うのはカンボジアだよ。なんでもやり放題、こんな国はどこにもない」と話題を変えたからだ。これ以上、手口を話したくないという目くらましでもあった。ゴリ押ししても無駄なので、田中の話を聞くことにした。

「日本でのシノギは行き詰まる。特に正業は絶対に、必ずだ。危機感を持ってない馬鹿ヤクザが多すぎる。俺は5年ほど前からカンボジアの軍や警察幹部にけっこうな額の寄付をしてきた。細かいことは教えられないが、実際、俺はヤツらを動かせる。殺したいヤツがいたらカンボジアに連れて行けばいい。電話一本ですぐに殺してくれる。追加の賄賂を500万ほど渡せば大喜びだ」

 田中がカンボジアに目を付けたのは今から3年ほど前だったという。

「これまでに2人を殺した。死体が上がらないので事件にはなってない。殺られたのも殺ったのもカンボジア人だ。商売敵になると思ったんで消えてもらった。その時に払ったのは死体一つにつき200万円だ。儲けを考えりゃ安い投資だ」

「カンボジアで何をやるつもりなんですか?」

「シャブを売っても売春を仕切ってもいい。セックスとドラッグは、世界中どこに行ってもマフィアが仕切っている。そのうちの日本人相手の分だけ俺らがもらう。歌舞伎町に進出してきた中国マフィアの逆をやるわけだ。マフィアのいない途上国なら軍隊だ。これは金でどうにでもなる。でも俺にはいい考えがある。少ない投資で確実に儲かる方法が……」

 そのアイディアとは“投資詐欺”だった。1年もかからず10億程度の儲けになるだろう、と田中は豪語した。ちなみに田中は見事に復興利権も手にした。福島の原発復旧工事、宮城の建設談合、青森では個人住宅の建設で、月に2000万円程度のシノギになっていた。 田中は日本での稼ぎの大半を、カンボジアをはじめとする海外につぎ込んだ。

「まともな仕事より、あくどいシノギが性に合う」

 口元をゆがめて笑うが、カンボジアでのシノギは今後正業へシフトし、投資詐欺はやめるつもりだという。これまで騙し取った総額は9億円弱で、1年ちょっと前に豪語した目標金額までは少々足りない。だが、さすが博徒、いや、犯罪のプロだけあって、勝負の引き際を心得ている。

「この1年でちんけな詐欺師やブローカーが増えすぎた。ほんとかどうか知らねぇが、ヤクザの名前を騙ってる不届き者もいる。けっこう派手にやってるから、いずれ裁判になるだろうし、マスコミも騒ぐだろう。注目が集まる前にやめる。タッチ・アンド・ゴーってやつだ。投資詐欺は今後も続くだろうが、いまごろ始める連中はハンパ詐欺師連中に決まっている」

 事実、カンボジアへの投資詐欺案件は年々増加し、日本の国民生活センターは注意喚起を出した。プノンペンの飲食店経営者は「日本大使館にも苦情が殺到している」と証言する。

 そのほとんどが農地開発やリゾート建設を名目に金を集めており、規模の大小はあっても手口はほぼ共通している。今後、発展が見込まれるカンボジアという途上国だけに、金儲けのチャンスがあることは事実であり、定年退職した夫婦がコツコツと蓄えた貯蓄や退職金をつぎ込んだり、欲に目がくらんだ富裕層が、よく調べもせず1000万単位の金を騙し取られる。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン