国内

元社長に盗撮容疑の日本IBMは「売上高半減」で法人解体の危機

「不祥事を起こしてしまった企業は、社会の信頼を一瞬にして失うわけですが、その影響は一企業にとどまらず、場合によっては業界、あるいは経済界全体に対する社会の信頼そのものが揺らいでしまうリスクを抱えております」

 2003年10月、日本経団連で企業倫理を担当する委員会の委員長を務めていた日本IBMの大歳卓麻氏(当時、代表取締役社長執行役員)は、並み居る経団連企業のトップを前にセミナーをこう締めくくった。

 あれから9年――。同社の最高顧問に就任していた大歳氏は、JR四ツ谷駅のエスカレーターで女性のスカート内を「iPod」で盗撮した容疑で事情聴取を受けた。すでに同社はじめ総務省の諮問機関会長職や5社の社外取締役を辞任する意向を示しているというから、半ば容疑は認めているに等しいだろう。

 かつてはIT企業のエリート集団ともてはやされた日本IBM。しかも1999年から今年5月まで社長、会長と歴任した大物幹部の不祥事だけに呆れるばかりだが、同社の凋落は人材のみならず、経営面でも今に始まったわけではない。

「2003年にハードディスク駆動装置(HDD)を日立製作所に売却したり、2005年には主力のパソコン事業を中国レノボ・グループに売却したりするなど、ハードからサービス事業に転換するとともに売り上げも減少し続けました。2011年の売上高は約8700億円と、10年前のほぼ半分になってしまいました」(経済誌記者)

 ハード事業を手放した後は、企業のシステム構築や保守管理を一手に引き受ける業務に注力していたが、それもかつての勢いは見られないという。

 最近、IBMらと共にエネルギー企業のシステム案件の入札に参加したことがあるというベンチャー企業の関係者が証言する。

「いまシステム開発は、アクセンチュアや野村総研といったコンサル企業が強く、入札に参加してもIBMは負けっぱなしの状態です。しかも、われわれのようなベンチャー相手でさえ半値で受注しようとするほど追い込まれています」

 7月には明治安田生命の基幹業務システムのアウトソーシング契約を更改したばかりだが、同社は大歳氏が社外取締役を務めていた企業。コツコツと人脈で築いた仕事さえ水泡に帰す恐れもある。

 個々の仕事を失うならまだいい。さらに悲惨なシナリオを描く向きもある。

「日本IBMという日本法人が解体される危機です。世界のIBMは米IBMを筆頭に各国の法人が独立性を高めた組織になっていることが特徴ですが、今年の5月から日本IBMの社長になったのは、ドイツIBMで“コストカッター”の異名を取っていたマーティン・イェッター氏。

 ただでさえ社員は業績不振でいつリストラの憂き目にあうか戦々恐々なのに、大歳氏の事件を機に、イェッター氏の容赦ないクビ切りと日本法人の独立性を失わせる改革が次々と行われる可能性は高い」(前出・経済誌記者)

 大歳氏にとっては一瞬「魔が差した」言動だったのかもしれないが、その代償は約1万4000人の社員に重くのしかかる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン