国内

マルちゃん正麺 ヒットで業界に「マルちゃんショック」の声

 年間約18億食の袋麺市場に異変が起きている。ここ半世紀、「チキンラーメン」(日清食品)、「サッポロ一番」(サンヨー食品)の二大ブランドが君臨していた市場が「マルちゃん正麺」(東洋水産)の登場で大きく揺れているのだ。この9月には大手各社が巻き返しを図るべく、新商品を投入。“ナカ食”ブームや震災後の備蓄買いで市場が復活するなか、袋麺戦争“秋の陣”が幕を開ける……。

 大手食品会社の製麺開発者が語った。

「私たちは“マルちゃんショック”と呼んでいるんです。あの商品登場前まで市場は長らくダウントレンド状態にありましたからね」

 業界に衝撃を与えた「マルちゃん正麺」を紹介する前に袋麺市場の歴史を紐解きたい。始まりは日清食品が「チキンラーメン」を発売した1958年。続いて1966年、「サッポロ一番」(サンヨー食品)、「明星チャルメラ」(明星食品)のヒットにより一般食卓に浸透した。

 ピーク時は1972年の年間37億食。だが、その前年から登場したカップ麺がその利便性や味のバリエーションの豊富さで徐々に袋麺のシェアを奪っていく。さらに草創期のヒット商品がそのまま定着したことで市場が縮小。近年は3年連続で総売り上げが下落していた――そんな無風状態の市場に革命を起こしたのが昨年11月に発売された「マルちゃん正麺」だったのだ。

 食した者が皆、驚くのが生麺のような食感だ。販売元の東洋水産担当者はこう胸を張っていう。

「“正麺”という名前には、東洋水産として考える『これこそ正しい麺、理想のラーメンの完成形』という自負がこめられています」

「マルちゃん正麺」が目をひいたのは画期的な製麺方法である。これまで即席麺は、打ち上がった麺を140~150℃の油で数分揚げるフライ麺と、熱風乾燥させるノンフライ麺の二つの方法が主だった。インスタントラーメン愛好家としてテレビでも活躍中の大山即席斎氏が説明する。

「チキンラーメン、サッポロ一番といったフライ麺は、食感こそ劣るが、油で揚げたことによる香ばしさ、まったり感がある。それに対して食感を追求したノンフライ麺は油を使っていないのでヘルシーだが、麺に味がなく油分が少ないから、味の深みとふくよかさに欠ける。それを補うために調味油が付いています。つまりどちらにも一長一短があった」

 だが、東洋水産は従来のフライ麺、ノンフライ麺どちらにも属さない新製法を約5年の研究期間を経て開発した。それが切り出した生麺を蒸し上げる工程を省いて、そのまま乾燥させる「生麺うまいまま製法」だ。乾燥麺でありながら、なめらかでコシのある食感が楽しめるようになった。

「実際、食べるとノンフライ麺のもちもちとした食感と、フライ麺の風味の良さを融合している麺だと感じます」(大山氏)

 続いて料理研究家の相田幸二氏もこう評価する。

「ラーメンと即席ラーメンは全く別物だと考えていました。でも、マルちゃん正麺は、“ラーメン”の麺を再現しようという企業努力が見える。極端な言い方をすれば、即席麺としての一線を越えてしまった」

 茹でる際には麺がほぐれやすいように麺をほぐした上で乾燥させた。形状も鍋で調理しやすいように丸形だ。子どもからお年寄りまで食べ易いように、麺の長さも従来の約半分の25~30センチでカットされている。改革は細部にわたる。

「会社を挙げて袋麺改革に取り組んでいるということをCMからも感じました。俳優の役所広司に、『麺が美味い』と連呼させる。ひたすら麺の食感を訴求したCMに自信が見て取れます」(相田氏)

 2011年11月から2012年6月までで合計1億食を出荷し売り上げは100億円を突破した。8月6日には「塩味」が発売となり、年間200億円を目指すという。

※週刊ポスト2012年9月28日号

関連記事

トピックス

小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン