国内

外務官僚 中韓との緊張続く中、省益確保に躍起になっていた

 中国では大使の公用車が襲撃され、韓国からは親書を送り返される。近隣諸国とこれまでにない緊張状態が続いている中、その最前線で「国益」を守るべき外務省が、あろうことか火事場泥棒のように「省益」を拡大させていた。外務官僚たちの亡国の思惑を、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が暴く。

 * * *
 8月10日、韓国の李明博大統領が竹島に上陸した。同15日には、香港の活動家ら14人が尖閣諸島領海に不法に侵入し、魚釣島に上陸した5人が沖縄県警によって不法上陸容疑で、それ以外の9人が不法入国容疑で逮捕された。これら14人は、日本の法律を犯したにもかかわらず、送検されず、国外退去処分にされた。そして帰国した14人は香港で英雄として迎えられた。

 韓国はその後も、李明博大統領が天皇陛下に謝罪要求し(8月14日)、慰安婦問題を「2国間の次元を超えた戦時の女性人権問題であり、人類の普遍的価値に反する行為」(8月15日、朝日新聞デジタル)であるとの演説を行ない、日本との関係を緊張させた。同23日に、韓国政府は野田佳彦首相の李明博大統領に宛てた親書(同17日付)を返送するという外交上、例を見ない非礼な対応をした。

 さらに在米韓国ロビーは、慰安婦問題をナチス・ドイツによるユダヤ人女性への強制避妊、人体実験、虐殺と同種の「人道に対する犯罪」であると弾劾するキャンペーンを精力的に展開している。日本外交はまさに中韓二正面作戦を余儀なくされている。

 日本の国家主権が脅かされそうな状況で政治家が対中、対韓外交に没頭している中、一部のはらわたが腐った外務官僚は、火事場泥棒のごとく、外務省の省益、外務官僚の個別利権を確保する画策を進めている。具体的には、駐米大使人事をはじめとする幹部人事だ。

〈政府は19日、藤崎一郎駐米大使の後任に佐々江賢一郎外務次官(60)、武藤正敏韓国大使の後任に別所浩郎外務審議官(政務担当)(59)をそれぞれ起用する人事を内定した。/(中略)外務次官には河相周夫官房副長官補を充てる。/(中略)米中韓という主要国の大使を一斉に交代させるのは異例だ。〉(8月20日読売新聞電子版)。

 確かにこれだけ大量の幹部が一斉に異動になるのは異例の人事だ。しかもこの報道は、明らかに読売新聞に対してリークされたものである。従って、読売新聞が異動の理由として記す内容は、外務官僚の理屈をそのまま反映したものと解するのが妥当だ。

 例えば、駐韓大使の異動の理由について、読売新聞は、〈韓国大使の交代も、韓国の李明博大統領による島根県・竹島への上陸や、天皇陛下に謝罪を要求する発言をめぐり、日韓関係が急速に冷え込んでいるため、次官級の別所氏を起用することで改善を図る狙いがある。別所氏は1975年入省で、小泉首相の事務秘書官を約5年半務めた後、総合外交政策局長などを歴任した。〉(同上)と記す。

 しかし、武藤正敏現大使を据えた理由を、「武藤大使は外務省初の韓国語研修のキャリア職員で、語学に堪能で地域事情に通暁し、人脈がある」からと外務省は説明していた。別所氏は、典型的な不作為型外務官僚で、外務省ナンバーツーの外務審議官に上り詰めたのも「安全第一」で、仕事でリスクも負わなければ、政治家との接触も極少にしてきたので、「別所ならば敵がいない」という消去法で選ばれてきた経緯がある。これは外務官僚と外務省を担当する霞クラブの記者ならば、誰でも知っていることだ。

 さらに、佐々江賢一郎氏の駐米大使就任について読売新聞は、〈駐米大使に外務次官経験者が起用されるのは、2001年に退任した柳井俊二氏以来11年ぶり。佐々江氏は1974年に外務省に入省し、経済局長やアジア大洋州局長などを歴任した。日米両国の間には、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題や、米軍の新型輸送機MV22オスプレイの沖縄配備など懸案が山積しており、これらの事情に精通している佐々江氏が適任と判断した。〉(同上)と報じる。

 まったく説得力のない記事だ。米海兵隊普天間飛行場の移設問題、MV22オスプレイの沖縄配備問題に関して、出先の駐米大使が果たす役割はきわめて限定的だ。外務官僚トップである外務事務次官のときに指導力を発揮できなかった佐々江氏が、駐米大使に就任すればスーパー外交官に変容するとは考えられない。

※SAPIO2012年10月3・10日号

関連キーワード

トピックス

11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン