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学歴ロンダリングある大学院だが40歳で定職つけない人もいる

 作家で人材コンサルタントの常見陽平氏は大学院生でもある。なぜ忙しい仕事の間に大学院に通おうと考えたのか。他にどんな人が来ているのか。いまどきの院生生活を紹介しよう。

 * * *
 実は私、大学院生です。修士課程1年です。大学の非常勤講師、ライター業をしつつ、大学院に通っています。今回は、イマドキの大学院生活ってどうよ、ということで、ぶっちゃけ話をお届けします。

 まず、私が38歳にして、大学院に入学した理由ですが、包欠かさずお話しすると、雇用・労働、キャリア系の物書き、講師として自分の限界を感じたのですね。自分の知識を体系化したい、もっと掘り下げて考えたい、調査・研究のアウトプットのスキルを上げたいなと感じたのです。また、いくつかの大学で非常勤講師をしているのですが、学位と論文がなければ、よっぽどラッキーではない限り、大学の准教授、教授にはなれません。40代は大学の先生×批評家の仕事をしたいなと思い、受験しました。今のところ、博士課程まで進むつもりでいます。

 現在は労働社会学を専攻しています。日本の採用活動の変遷が研究テーマです。後期は週に2日、火曜日と金曜日に大学に行っています。火曜日は午前中がゼミ、午後に「人材マネジメント」、金曜日は午前中に「社会政策史」を履修しています。火曜は武蔵野美術大学、金曜は実践女子大学で講義がある日なので、この日にまとめています。大学で講義を受け、「来週までにレポート!」「課題図書はこれ!」などと指示された後に、講義をし、同じような指示をするのは自分でも不思議な気分になります。

「でも、お高いんでしょう?」

 入学金や学費が気になる人もいるでしょう。入学金は約28万円、学費は年間約54万円です。国立大学なので、そんなに高くはありません。ただ、生活費などをやりくりしないといけないのと、勉強に集中する分、仕事を減らさなければいけない分、収入が減るのでその分は辛いですね。ただ、いま、サラリーマンの頃以上に働いているのと、妻が働いていて、ひも、家畜状態なのでなんとかやっていけますが。

 これまでも採用担当者や非常勤講師、講演のゲストなどで大学にお邪魔していたのですが、大学院生として内側からみるとまた印象が違いますね。

 私は1997年に大学を卒業したわけですが・・・。その頃と比べるとまず、学内外のIT環境が違います。学内に無線LANが飛びまくっています。図書館の貸し出し予約もネット経由でできます(これは院生の特権らしいです)。もちろん、論文の検索も楽勝です。レポートの提出、資料のダウンロードなどもウェブ経由です。

 学生食堂のメニューが増えていて、しかも美味しくなっていて感動しました。500円以内で栄養のバランスよく、お腹いっぱい食べられるのはいいですね。大学生協のサービスメニューも充実で、本の取り寄せもネット経由でできますし、文房具も充実。大学生協限定仕様のPC(有名メーカーによるもの)も売っていますよ。

 大学院生ですが、「学校基本調査(平成24年度速報)」によると、現在、全体で263,317人います。うち、社会人は54,214人です。なお、ここでの社会人の定義は、平成24年5月1日現在、1.職に就いている者(給料・賃金その他の経常的な収入を得る仕事に現に就いている者)、2.給料・賃金その他の経常的な収入を得る仕事から既に退職した者及び、3.主婦・主夫です。

 私は社会学研究科というところにいるのですが、働きながら通っている人は同じ学年の知り合いの中では私くらいですね。退職(含:定年退職)して入学してきた仲間は、まわりに数人います。全体ではわかりませんが。私の学科に関しては20代、30代に関して言うと、会社員は合わないと感じた人、人生をやり直したい人などが多いなと感じました。ちなみに、専門職学位課程は世の中全体で言うと、4割が社会人です。こちらは特定のスキルを身につけるための人が多い印象です。MBAコースなどは企業派遣の方もいらっしゃいますね。ロースクールなどはまさに法曹になるためなのでしょうけど。

 入社した企業とのミスマッチ、将来への不安などから今後も大学院を志望する社会人は増えることでしょう。大学経営にとっても社会人の取り込みは課題です。ただ、あとでお伝えしますが、大学院に行っても幸せになれるわけでも、進路が保証されているわけでもありません。ここを気をつけないと希望難民だらけになるのですねえ。

 あと、よく「学歴ロンダリング」と言って、学部時代よりもランクの高い学校の院に進むことが話題になるわけですが、その言い方はともかくとして学外からの入学者が多いことは事実ですね。ガイダンスのときに挙手する様子を見ていたのですが、私の研究科は6割強が外部のようです。様々な大学からやってきています。もっとも、学歴ロンダリングを悪く言う声は多数ですが、勉強熱心な人が多いこともまた事実です。

 約1年前に大学院の入試を受けたのですが・・・。面接に行ったときに驚いたのは、「結局、みんなリクルートスーツじゃん!」ということでした。控え室に行ったら、若い人はみんなリクルートスーツだったのですよ。私はライトグレーのスーツで行きましたけどね。大学の先生の中には、「日本の就活は、みんな同じ格好のリクルートスーツで画一的だ。けしからん」ということを言う人がよくいるわけですが、院試も変わらないじゃないですか。まぁ、リクルートスーツは無難で使いやすいということが証明されたとも言えますがね。

 さて、大学院生活ですが・・・。正直なところ、みんな、よく勉強するなあと感心します。いや、私ももっと勉強しなくちゃなのですが。一方、学部生以上に将来は不透明だなと感じます。民間企業への就職、博士課程への進学、その先の大学教員への就職・・・。まあ、当たり前ですが、自分の力で切り開かないといけないわけですね。経済的にも不安になりますし。40歳前後になってもずっと定職につけない人もいますしね。それでも激しく研究を続けるわけで。たまに切なくなります。

 というわけで、学部生の就活も大変ですが、院生の進路というのもなかなか大変なわけです。はい。

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