国内

医薬品販売業界は官界、政界と「鉄のトライアングル」を結成

 薬(第一類と第二類)については、「対面」で販売しなければならない。その論拠として厚生労働省が指摘するのは、安全性の問題。つまり、薬局での販売ならば、薬剤師がいて症状を聞き、顔色を見ながら適切な薬を選び、副作用などの注意事項もきちんと伝えることができる。

 これに対しネット販売の場合は「対面」していないために、なにかと危険性が伴うのだという。だが、薬局に薬剤師がいても、本人が寝込んでいて外出できず、代わりに来た家族の顔色しか分からない。これは「対面しないから危険」という説明は成り立たないではないか。なぜこのような規制が出来上がるのか。政策工房の原英史氏が解説する。

 * * *
 ちょっと考えれば論拠があやしいにもかかわらず規制ができあがり、今も維持されているのは、端的に薬局やドラッグストアなど、店舗を持って薬を販売する業界の力だ。時代劇でよく、××屋などと称する悪徳商人がお代官(官僚)とつるみ、新規参入業者を排除して利権をむさぼったりするが、同じ構図と言ってよい。

 規制を作るプロセスでは、厚生労働省が設けた有識者会議にネット販売を行なう新しい事業者は入れてもらえず、既得権業界だけがメンバーだった。その中で、「ネット販売は危険」という議論が積み重ねられていった。

 ネット販売を手掛け、今回の訴訟の原告でもあるケンコーコムの後藤玄利社長は、「そうした(既得権)業界は、官界、政界と強い結びつきをもっていて、いわば『鉄のトライアングル』です。私たちがいかに声をあげても、役所や政治を動かすことは困難でした。だから、司法の場に訴えるという手段をとらざるを得なかったのです」という。

 政官業の「鉄のトライアングル」を支えている要素の一つが政治献金だ。日本薬剤師連盟からの政治献金(パーティー券購入や寄付金)の合計額は、2008年が約2億8000万円、2009年が約5億円、2010年が約1億8000万円。額が突出している2009年は総選挙のあった年だ。選挙の時期には「陣中見舞い」名目であちこちに資金が配られていた。苦しい時にお世話になり、陳情を無下にできなくなる政治家が大量に生まれたわけだ。

 政と業をつなぐ政治献金のほか、官と業をつなぐ天下りもある。例えば、日本薬剤師研修センターなどの団体では厚生労働省OBが理事を務める。天下りを受け入れてもらう立場の役所も、やはり頼まれごとを断わりづらくなる。

 そうした図式が分かれば、控訴審判決後、国がなぜ上告したかも分かりやすい。既得権業界はここ数年、ネット販売解禁に備えた体制整備を進めてきたとはいえ、まだまだ準備不十分。上告してもらって時間を稼ぎ、その間にできるだけ自分たちに有利な形で「ネット販売一部解禁」のルールを作ってしまおうということではないか。

 一部議連からの異論があったとはいえ、やはり「鉄のトライアングル」は強固だったのだ。あるネット販売関係者はこう言う。

「解禁に動いてくれる議員もいるが、既得権業界とつながる議員の死にもの狂いの活動には負ける。解禁されれば票とカネを失う、と考える議員のほうがこの問題に力を注ぐわけです」

※SAPIO2012年11月号

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン