「アラブの春」以降、アラブでイスラム原理主義が台頭する状況はもはや「アラブの嵐」状態。そんな中、イスラエルがイランに対して攻撃を加える可能性が高まっている。イスラエルがイランへの攻撃に踏み切れば、日本とて影響を受けずにはいられない。中東情勢から日本が学ぶことはあるのか。ジャーナリストの落合信彦氏が解説する。
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世界情勢は将棋盤のように複雑だ。ある一箇所でバランスが崩れれば、その影響は全体に波及する。ロシアはイランを助けるだろうし、アメリカはイスラエルを支援せざるを得なくなる。
この紛争による混乱に乗じて、中国が行動を起こす可能性も高まっている。例えば尖閣諸島への上陸は、平時であれば国際社会から非難を受けるが、中東で戦争が起きていれば話は違ってくる。日本はその時、ならず者国家と自分自身の力で対峙しなければならない。
中国で反日デモが起きても、大多数の日本人は東京の中国大使館の前で同じことをしようとは考えない。それはそれで素晴らしいことだ。一党独裁の中国と、やや稚拙ではあるが民主主義国家の日本は全く違う。大人の品格ある国家として対応すればいい。日本人はスポーツの試合でも相手国の国歌斉唱の際にブーイングなどしない。相手を尊重し、自国に誇りを持つ。その姿勢はもちろんこれからも失ってはならない。
ただし一方で、相手が一線を越えたらいつでもケンカができる姿勢を見せなければならない。中国の品格なきデモや韓国の反日ヒステリーは二流国の証しだが、「日本が反撃しない」とわかっているからエスカレートしている側面はある。
尖閣を巡って中国の海軍と向き合うような事態になった時、日本にブリンクマンシップ(瀬戸際戦略)を取る能力はあるだろうか。極限まで緊張を高め、その結果として相手の譲歩を引き出す手法だ。50年前のキューバ危機で、ジョン・F・ケネディは第三次世界大戦勃発ギリギリまで緊張を高め、ソ連のフルシチョフから譲歩を勝ち取った。その時と同じことが日本にできるかが問われるのだ。
私は20年以上、日本には諜報機関が必要だと言い続けてきた。「ケンカ」をするためには情報がいるのだ。ケネディもただ単にフルシチョフと我慢比べをしたわけではない。搦め手では大使ルートでアメリカの諜報機関がソ連の弱みを握っていることを伝え、脅しをかけていた。
日本人の武器は頭のよさのはずである。お行儀の良い賢さだけでなく、インテリジェンスの世界で通用する賢さを身につけなくてはならない。そのために残された時間は少ない。
確かに日本の国力は落ちてきた。その状況を見透かして、中国や韓国、ロシアは日本にケンカを仕掛けている。国家の危機だが、これはチャンスでもある。日本では総選挙が近づいてきたが、有権者の一人ひとりが深く考えるべきだ。政治家の甘い言葉に騙されていないか、大新聞・テレビの無責任な報道に踊らされていないか。そして、国を守るためにはどういった投票行動が必要なのか。
日本人はお上に唯々諾々と従いがちだ。それでも耐えながら結果を残すのが美徳とされてきた。しかし、激動の世界の中で「政治家はバカだが国民は一流」というスタイルでは生き残れない。規律正しくありながらも、言うべきことは言い、ケンカすべき時はケンカをする。その覚悟が求められるのは、国家も政治家も個人も同じなのである。
※SAPIO2012年11月号