芸能

井筒監督 新作で妻夫木の演技には注文つけず「好きにやって」

井筒監督は妻夫木を「器用な俳優さん」

 11月3日公開の話題の映画『黄金を抱いて翔べ』。銀行から240億円の金塊を強奪しようとする6人の男たちを描いたストーリーだ。井筒和幸監督が、高村薫氏の同名小説の原作に惚れ込み、映画化を熱望。3か月に及ぶ撮影で、今までの井筒作品とは違った、男くさいハードボイルドな作品に仕上げた。現場では厳しいことで知られる監督だが、主演・妻夫木聡のほか、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン(東方神起)、西田敏行ら個性的な役者をどのようにまとめていったのか? 井筒監督にインタビューした。

――高村薫さんの重厚な原作を2時間余りで描く苦労はありませんでしたか?

井筒:物語上、必要な栄養分だけ残してそれ以外のものは裏に回したって感じ。それが大変だったの。この作品は、人間関係と、それぞれのキャラクターが面白いから。そこを外しさえしなければってすごい作品になるだろうって思ってましたから。金塊強奪という犯罪の話ではあるけれど、悪だろうが、善だろうがそんなことはどうでもいい。その先にある白昼夢を見るような話だから。

――作品を見終わった後、“その後”を考えさせられるストーリーだった。

井筒:そういうのを想像しながら見るのが面白いことやからね。最近の映画は、勧善懲悪でテレビドラマの延長みたいな作品が多くて、正義の押し売りや、涙と恋のバーゲンセールばっかり。見る前に結末がわかっちゃうようなものもある。どんでん返しといったって、たかが知れてるし、コミックの原作をなぞってるだけ。そんなのは作りたくなかったからね。

――確かに最後まで、作戦がどう展開していくかわからない緊迫感がある。

井筒:銀行の地下に浸入しても、本当に金塊が眠っているかどうかさえわからないわけでしょ。そう思わせながらハラハラドキドキで進んでいくからね。あるかないかわからないものをつかみに行くのがテーマです。そこがこの映画の哲学です。これに尽きる。不確かなものを探りにいってやろうという“夢と野望”ですよ。そうじゃないと新しい発見もないし、6人の心の通いも生まれてこない。それを互いに信頼しながら突き進んでいくっていうね。

――監督の生き方と通じてる気がしますね。

井筒:まあ似たようなもんかな。作れるかわからないけど作ってみよう、そんな映画ばかりだったからね。できたら面白いけど本当にできんのかなって。『ゲロッパ!』だって、ヤクザの親分が大ファンのジェームス・ブラウンのコンサートに行くなんて話、できるなんて思わなかったからね(笑い)。

――実行犯・幸田役で主演の妻夫木さんはどんな印象でしたか?

井筒:とても器用な俳優さんよ、本当に。今回の幸田という役は、相当、孤独な心を込めないとできない役ですから。どこか覚めていて暗い過去があって、感情を表に出さないハードボイルドな悪漢だから。でもいつも深刻ぶった顔ばかりしていられない。そこのリアル感が“鮮やか”でしたね。

――監督が、妻夫木さんの演技に注文つけなかったから本人も心配になったそうですね。

井筒:撮影が始まって何日か経ってから“これでいいんですか”って聞いてきてから、“それでいいから、そのまま好きにやってください”ってね。

――ひげとか衣装の役作りも本人の意図を組んだそうで。

井筒:最初の打合せのときに、ひげ面のままで来たから“それいいんじゃないの”って。そのとき着ていた私服も作品の中で着てもらったり。

――なかなか初タッグの監督の要望に照準を合わせてくる人はいないですよね。

井筒:いないと思いますよ。そういう意味では、今回のほかの俳優さんも、みんな心得てくれてたね。浅野くんも、衣装合わせのときに役作りで角刈りにしてきましたからね。たいしたもんです。6人とも欲望のまま動く役だからね。そういう意味じゃ、演じにくいとは思わなかったんじゃないですかね。

――システムエンジニアとして作戦に参加する野田役の桐谷さんは、6人の中でもっとも一般人の感覚を持っている役だった。

井筒:そうやね、計画から一度逃げ出そうとしたしね。小心者のサラリーマンやから、ハマってたよね。『ゲロッパ!』でも小心者の役だった。あいつ、小心者は大得意(笑い)。

――桐谷さんは、『ゲロッパ!』で映画デビューし、その後も監督の作品に何本も出演している。どのあたりが成長したと思いましたか?

井筒:いい具合に自分の芝居を組み立てることができるようになったというかね。最初のころは、無防備で来たけど、今は自分の秘めた演技力をフルに出せるようになったんやなあって思いますね。本人は“とっくになってますよ”って言うかもしれないけどね(笑い)。

――監督の現場はよく怒号が飛ぶと有名ですが、今回は?

井筒:それは『パッチギ!』のころまでの話ですよ。今回は全然、怒号は飛ばしてない。周りのスタッフが怒号飛ばしてただけですから(笑い)。

――最後に、この作品をどんな人に見てもらいたいですか?

井筒:挑戦したくてもできなくてウジウジしている…でも野望がある、そういう人に見てもらいたいね。高島屋のデパ地下でスイーツの新作が出るから買いに行きたいとか、小田急百貨店の北海道海産物フェア狙うっていう、そっちの野望もいいけど(笑い)。野望なんてない、地味に暮らして地味に墓に入ります、って思ってる人でも一回見てほしいね。

 男の人も毎日会社に行って、生きてるのか死んでるのかわかんない顔して、地下鉄乗って夕方までノルマこなして上から怒られたり下から突き上げられたりしながら夜はヤケ酒飲んでるくらいだったら、この映画見て、何かを感じてほしいね。“オレもいっちょやったろか”っていうね。社会の閉塞感に打ちのめされたくない、目的を見つけたい、っていう心意気のある人にぜひ見てほしいね。

『黄金を抱いて翔べ』
過激派や犯罪相手の調達屋などをしてきた幸田(妻夫木)は、大学時代の友人・北川(浅野)から、住田銀行本店地下にある240億円相当の金塊強奪計画を持ちかけられる。北川がメンバーに選んだのは銀行システムエンジニアの野田(桐谷)、自称大学院留学生で国家スパイの裏の顔を持つモモ(チャンミン)。さらに、北川の弟・春樹(溝端)、元エレベーター技師のジイちゃん(西田)が仲間に加わり、6人の男たちの計画がスタートする。

関連記事

トピックス

憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(左・時事通信社)
【東大前駅・無差別殺人未遂】「この辺りはみんなエリート。ご近所の親は大学教授、子供は旧帝大…」“教育虐待”訴える戸田佳孝容疑者(43)が育った“インテリ住宅街”
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博を訪問された愛子さま(2025年5月8日、撮影/JMPA)
《初の万博ご視察》愛子さま、親しみやすさとフォーマルをミックスしたホワイトコーデ
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
事務所独立と妊娠を発表した中川翔子。
【独占・中川翔子】妊娠・独立発表後初インタビュー 今の本音を直撃! そして“整形疑惑”も出た「最近やめた2つのこと」
NEWSポストセブン
名物企画ENT座談会を開催(左から中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏/撮影=山崎力夫)
【江本孟紀氏×中畑清氏×達川光男氏】解説者3人が阿部巨人の課題を指摘「マー君は二軍で当然」「二軍の年俸が10億円」「マルティネスは明らかに練習不足」
週刊ポスト
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン