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パナソニック 巨額赤字をひっくり返すスマートハウスの実態

 2012年3月期決算で7721億円という過去最大の赤字を計上し、本社の従業員を約半分に減らすなど大幅なリストラ策を打ち出しているパナソニック。

「中小企業の寄せ集め」――今のパナソニックは、そう呼ばれる。牽引役になる部門がなくなったからだ。上位の5商品群が全売り上げに占める割合は、かつてテレビ・オーディオ・録音機・クーラー・暖房で65%という時代もあったが、現在は30%以下。つまり、「何を売る会社なのか」という経営戦略が明確になっていないのだ。

 プラズマテレビは会社を支える商品になれず、結果として「経営戦略の空白期が続いてしまった」(元役員)。

 社員らの証言からも「寄せ集め」についての指摘が数多く出てきた。牽引役不在となった商品についてもそうだが、特にパナソニック、電工、三洋電機の合併に関する意見が目立った。

「パナソニックと一緒になって気づいたのは、会議のための会議が多い。話が決まらないし、前に進まない。遅い体質の会社です」(三洋出身の30代社員)

「パナソニック電工は、基本は体育会系で他の社とは少し企業風土が違う。どうやって融合させていくのだろう」(東京三洋の社員OB)

「この夏のボーナスが激減し、奥さんに嘆かれた人がたくさんいる。自分たちが赤字を出したわけじゃなく、本体(パナソニック)が失敗しただけなのに……」(電工出身の40代社員)

 複数の都市銀行が3メガバンクに再編された時もそうだったように、企業同士の合併では様々な不満が出る。それは仕方ないとしても、次のステップとしてそれぞれの組織をまとめ、進むべき方向を示す経営戦略が求められる。もちろんメーカーである以上、合併により初めて可能になる新しい商品がどうしても必要だ。

 その1つの答えは、「スマートハウス」だ。パナソニックが10月から本格展開していく「HEMS(ヘムス/ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)」がその新たな戦略の鍵となる。HEMSとは、センサーやITを使い、住宅で使用されるエネルギーを管理して電気の使用量を抑える省エネシステムだ。

 電気の使用状況を表示し、同時にエアコンや照明など機器を最適な使用状態に制御していく。電機メーカー各社が意欲を示しており、パナソニックは「スマートHEMS」というブランドで展開する。

 同社は今年2月、発電する太陽光パネル、蓄電する家庭用リチウムイオン電池(容量が大きい旧パナソニック製を採用)などのシステムを発表した。9月には家中のエネルギーを「見える化」し、対応家電などを制御する「AiSEG(アイセグ)」という機器を発表した。

 希望小売価格は約11万円と高額だが、2013年度で1万セット、2015年度に5万セットの販売を目標としている。パナソニック副社長で事業を担当する社内カンパニー・エコソリューションズ社社長でもある長榮周作はこう語った。

 ちなみにAiSEG開発に携わったエコソリューションズ社は旧電工系だ。「HEMS関連事業の国内売上高は、2013年度に200億円、2015年度に2000億円を目指す。電工がもっていた電材ルート、約1万8500店の専門店(パナソニックショップ)ルート、量販店ルートと、3チャンネルを使える。2015年までには海外も進めていくつもりだ」

 HEMSの開発プロジェクトが旧電工内に立ち上がり、岡村晶子が商品企画を担当したのは2006年。現在岡村はエコソリューションズ社の「まるごとソリューションズ本部」で参事の肩書を持つ。

「まさか(パナソニックと)同じ会社になるとは思わなかった」と笑う岡村は、国立大学の精密工学科の出身。1990年に旧松下電工に入社した。2004年に電工がパナソニックの子会社になる前は、大阪にある2社の本社ビルの間を走る国道1号線に「目に見えない壁がある」と言われるほど、ほとんど交流はなかった。岡村が語る。

「それが、一緒に仕事をするようになりましたが、使う言葉も違っていて、最初は通じなくて困ったこともありました。例えば、パナソニックで言うBU(ビジネスユニットの略)は、電工では事業部と言いました」

 あらゆる家電をつなぐHEMSという商品の性格から、パナソニックや旧三洋との連携を深めていく。岡村が続ける。「当初は違う社の技術担当者の方と話すと、『つながるなんて、意味があるの?』などと言われることもありました。

 動きづらいな、と感じることも……。でも、基本的なことですが繰り返し工場まで行って面と向かって相談したり、携帯番号の交換をして話したりしているうちに、だんだん打ち解けてきました。最近はテレビ会議のシステムも使ってコミュニケーションしています。

 特に大きく変化したのは、巨額の赤字を出してから。全員が『変わらなきゃ』と思っているようで、技術担当者の方からも、『つなげるなら、こんなことができるよ』とか、『この商品もつながらないかな』とか提案が来るようになりました」

 岡村らが開発したAiSEGはエアコンやIHクッキングヒーター、エコキュート(電気給湯器)、リチウムイオン電池、エネファームなどにつながり、今後はEVを含め、つながる家電・機器が増えていく。それが岡村の肩書にもある「まるごと」の狙いである。

 その先にあるのが、スマートハウスだ。グループ内には、住宅メーカーのパナホームも抱えており、シナジー効果は高い。すでにパナソニックは、パナホーム、オリックスなどと連携して神奈川県の藤沢市にスマートハウスを集めたスマートタウンを作る構想も発表している。また、あらゆる家電・機器をつなげることから、合併した3社をはじめグループ33万人の“真の融合”も期待できる。

 強味だった分野をスマホに奪われた負け組企業が、今度は残された強味を結集して他社が真似できない巨大な複合商品を武器に復活する。シナリオ通りにいけば、こんな小気味好い逆転劇はない。(本文中敬称略)

■永井隆(ジャーナリスト)と本誌取材班

※SAPIO2012年11月号

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