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中国尖閣侵略情報で「幻の自衛隊尖閣派遣命令」存在していた

2012.11.12 16:00

 自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣だが、仮に日中「開戦」の決断をせざるを得ない場合にあたってどのような障害が首相の前に立ち塞がるのか。戦後、日本の政治家が経験したことのない重圧に、官邸は機能できるのか。  野田佳彦首相が尖閣諸島の国有化を発

 自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣だが、仮に日中「開戦」の決断をせざるを得ない場合にあたってどのような障害が首相の前に立ち塞がるのか。戦後、日本の政治家が経験したことのない重圧に、官邸は機能できるのか。

 野田佳彦首相が尖閣諸島の国有化を発表した後の9月中旬、首相官邸に緊張が走った。 〈中国が尖閣上陸部隊を編成し、人民解放軍の工兵を漁民に偽装させて漁船に乗り込ませる準備をしている可能性がある〉という情報が官邸にもたらされたのだ。安全保障に関わる政府のある部局が、衛星画像を分析してまとめた報告だった。

 工兵部隊を送り込むとなれば、尖閣上陸後、施設建設まで計画していると考えなければならない。中国側がそこまで尖閣奪取に本気なら、海上保安庁では手に負えない。

「自衛隊を尖閣に上陸させて警備させる必要があるのではないか」

 野田首相は側近で同じ松下政経塾出身の長浜博行・官房副長官(現環境相)に自衛隊を尖閣に派遣する準備をさせるよう内々に指示したという。外務、防衛両省の上層部は首相の姿勢に驚愕し、聞きつけた岡田克也・副総理が即座に「それだけはやってはいけない」と正式な指示が出る前にストップをかけたと政権内で伝えられている。 官邸のごく一部しか知らない「幻の自衛隊尖閣派遣命令」である。

 経緯を知る官邸スタッフはこう振り返る。

「その後、中国軍の尖閣上陸作戦の情報は間違いだったことがわかったが、野田側近たちは、しばらく後まで副総理の岡田さんが総理の指示をひっくり返すのは越権行為だと不満を漏らし、政権内は有事対応で足並みが乱れた」

 そのさなかに、もし中国が本当に実力行使に出ていたらと考えると恐ろしくなる。防衛当局が有事に備えるのは当然だが、自衛隊の出動を決断し、命令を出すのは時の政権の政治判断である。

 野田首相はこの間、国会で再三、「尖閣諸島を含む我が国の領土、領海で周辺国による不法行為が発生した場合は、必要に応じて自衛隊を用いることも含め、政府全体で毅然として対応する」と自衛隊出動に言及してきた。

 首相の防衛政策ブレーンで総理補佐官から防衛副大臣に就任した民主党の長島昭久氏も、8月15日に香港の活動家が尖閣に上陸すると、「尖閣領海を守るために自衛隊を使う方法を、法改正を含めて考える時になった」と語った。

 自衛隊出動論が強まっているように見えるが、“幻の派遣命令”を巡る指揮系統の混乱を見てもわかるように、いざ尖閣をめぐる日中衝突が現実のものになった時の「決断」は容易ではない。

 中国の武装漁民による尖閣上陸を海保では止められない事態となった場合、自衛隊はどのような動きを取ることができるのか。

 防衛省は昨年11月、〈いわゆる「領域警備」に関連する自衛隊の行動等について〉という文書で陸海空それぞれの対応や根拠法令、武器使用権限を整理している。

 その防衛省文書をもとに本誌がまとめた下の表でわかるように、「海上における主な自衛隊の対処」は4段階に分けられる。状況に応じて細かい制約がかけられ、言ってみれば事態の変化に伴って一つ一つ鍵のかかった扉を開けていかなければならない。日本の政治が迅速に決断できるのか、という点が課題となる。

【海上における自衛隊の対処 】

〈第1段階〉警戒監視活動(防衛省設置法4条18号)
自衛隊艦船を調査・研究名目で近海に待機させることが可能。武器使用には厳しい制約。命令権者は防衛大臣。

〈第2段階〉海上警備行動(自衛隊法82条)
「海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合」に防衛大臣が命令を出し、首相が承認。武器の使用は、「警察官職務執行法(7条)」「海上保安庁法(20条2項)」が準用され、〈外国船舶 (軍艦等を除く)を停止させるための武器の使用〉が可能。

〈第3段階〉治安出動(自衛隊法78条)
「一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合」に内閣総理大臣が命令を出す。国会承認が必要。武器使用は「警察官職務執行法(7条)」「海上保安庁法(20条2項)」の準用に加え、「自衛隊部隊が防護する重要施設に攻撃が加えられる」などの場合に可能となる。治安出動は過去、発動されたことはない。

〈第4段階〉防衛出動(自衛隊法76条)
「武力攻撃事態」が発生した場合に、内閣総理大臣が命令を出す。国会承認が必要。「我が国を防衛するため、必要な武力を行使」することができる。過去、発動されたことはない。

※SAPIO2012年12月号

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