芸能

「水曜どうでしょう」名物Dが政治家とプロデューサーを語る

「水曜どうでしょう」のディレクター、藤村忠寿氏(47歳)

 北海道発のローカルバラエティー番組、しかもレギュラー放送終了から10年も経つのに、いまなお全国区の人気を維持する「水曜どうでしょう」。サイコロを振って行き先を決めたり、原付バイクでベトナムを縦断したり……。その珍道中、ハプニングの連続が視聴者の心をワシ掴み。メイン出演者の大泉洋氏は番組をきっかけに押しも押されぬ俳優となった。

「水どう」の生みの親であるディレクターの“藤やん”こと藤村忠寿氏(現・北海道テレビ放送エグゼクティブディレクター)は、現在もテレビドラマや舞台の演出、講演会や著書の執筆など多忙な日々を送る。「昔は地方自治体の首長になりたかった」と明かす藤村氏が、リーダー不在のテレビ界、政界にモノ申す。

 * * *
「総理大臣になりたい!」っていう子供って、今いるんでしょうか。

 だって、総理でいられるのって、今や数か月からせいぜい2年ぐらいでしょう。で、その間、尊敬されるどころか主にバッシングを受けるわけでしょう。「ボクは将来、総理大臣になって、いっぱいいっぱいバッシングを受けたいです!」なんていう子供はいないと思うんですよね。

 私は昔、市長とか町長になりたいと思ってました。もう40年近く前のことです。あのころはまだ、日本という国が目指すべきは、経済的な発展であり、物質的な豊かさであるとみんな思ってました。進むべき道に迷いはなかったわけです。だから、その先頭に立つ政治家に、子供が無邪気に憧れることもできました。

 でも今は、経済の発展には頭打ちがあることを知り、物質的な豊かさが人を必ずしも幸福にするわけではないとわかって、これから進むべき道がまだはっきりしない時代です。そして、その先頭に立つ政治家は、道を示せないまま混乱し、お互いの欠点を言い合うばかり。今の子供が政治家に憧れるとは思えません。

 私は今、テレビの仕事とは別に、札幌の市民大学で「2050年の札幌を考える」という講座を開いています。年齢も仕事もバラバラな10人あまりが休日に集まって、札幌の未来を語り合います。その中で「札幌が劇的に良くなるグッドアイデア」なんてものは出ません。語り合いの中で出たのは、「町は人によって作られる」のだから、一番大事なことは「人を育てること」つまり「教育ではないか」という非常にシンプルなものです。

 だから、今の我々にできることは、この町を壊さずに維持すること。その中で、豊かな発想力を持てる人間を育て、彼らに将来を託す。結局、それしかできないのではないかということでした。

 いま、日本人からリーダーシップのある政治家が出にくくなっていると思うんです。これは、テレビや映画で、世界に通用する優秀なプロデユーサーが日本にほとんどいないのと同じ状況です。

 プロデューサーっていうのは、企画を生み出す人です。つまり「発想の人」。ドラマであれば、どんな話にするのか、誰を出演させるのか、その根本的な方向性を決める人です。方向性が斬新なものであれば、作品はほぼ成功したようなものです。

 一方、ディレクター(監督)というのは、その方向性に従って、出演者の動きやカメラの向きを決めたりする、細かい作り込みをする人です。日本人は、この細かい作り込みは非常に得意です。方向性さえ決まれば、それを根気よく、効率よく形にすることがとても得意です。でも、新たなものを生み出す発想力と、それを広く展開させる戦略や交渉術は、特に大局が読みづらいこの時代は不得意です。だから日本は、世界的に有名なクリエイターは輩出できても、世界的なプロデューサーは生まれないのです。

 政治家は、国の方向性を決めるプロデューサーだと思うんです。それさえ決まれば、日本の官僚も企業も、そして国民全体も、それを根気よく形にする力を持ち合わせていると思うんです。でも、ここのところ政治家は、やたらと細かいところにばかり目を向けて、「改革」という名の下に、これまで作り上げたシステムを壊すことしか考えていないように思えます。ちなみに、テレビの世界でも、現場を仕切るディレクターの演出に細かく口を出すプロデューサーは、現場を混乱させるだけ、というのが定説です。

 総選挙が近づいてきました。果たして立候補者の中に、豊かな発想力に恵まれたプロデューサーはいるのでしょうか?

【藤村忠寿】
1965年愛知県出身。90年に北海道テレビ放送(HTB)に入社後、編成業務やCM営業に携わり、1995年に本社制作部に異動。1996年チーフディレクターとして「水曜どうでしょう」を立ち上げ、出演者の鈴井貴之、大泉洋らとともに自身もナレーターとして出演。同番組は2002年にレギュラー放送を終了したが、その後も道内のみならず全国的に絶大な支持を集め、番組DVDシリーズは累計200万枚以上を売る大ヒット更新中。

関連記事

トピックス

クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン