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伝説の「江夏の21球」 水島新司と徹夜麻雀明けの登板だった

 約80年に及ぶプロ野球の歴史の中では、数々の名勝負が繰り広げられてきた。しかし、どんなに有名な出来事にも、まだまだ知られていないエピソードが存在する。今だからこそ語れる、「あの時」のベンチ裏秘話をお届けしよう。

 1979年の広島―近鉄の日本シリーズ。広島1点リードで迎えた第7戦9回無死満塁の場面は、「江夏の21球」の舞台として知られる。

 この時マウンドに立つ江夏豊の目に、救援の準備に走る北別府学が映り、「ベンチは俺を信用していないのか」と激怒。それに気づいた衣笠祥雄が「オレも同じ気持ちだ」と声をかけ、江夏が落ち着きを取り戻した、という話も有名だ。

 しかし、江夏を奮い立たせた伏線は、さらに10数時間前に引かれていたのだ。

 第7戦の前夜は雨。江夏は応援に訪れていた友人の漫画家・水島新司氏らと麻雀卓を囲んでいた。翌日の試合はとても無理と思われるような土砂降りに、ついつい朝方まで牌に手が伸びる。

 ところが朝になり、気づくと空はウソのような快晴。慌てて宿舎に戻った江夏は、そこで間が悪くも古葉竹識監督と鉢合わせた。江夏はこう語っている。

「監督は何もいわずに通り過ぎたんだ。そのときに、何ともいえない、後ろめたさを感じたよ」

 試合はもつれ、9回抑えのマウンドに立った江夏は、先頭打者にヒットを打たれ、盗塁と四球、敬遠で無死満塁、絶体絶命のピンチに。

「人間、後ろめたいことがあったら、絶対に失敗してはいけないという気持ちになる。だから必死だった」

 次打者の佐々木恭介を落ちるカーブで三振に取ると、続く石渡茂の2球目にカーブを投じてスクイズを外し、三塁走者をタッチアウト。2球後の21球目でバットに空を切らせ、ゲームセットに漕ぎつけたのである。

 野球に“たられば”は存在しないが、あの日もし江夏が麻雀をしていなかったら──名勝負は違った形になっていたかもしれない。

※週刊ポスト2013年1月18日号

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