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歌麿の傑作は8000万、北斎ら一流絵師も数千万する春画の世界

 世界最古にして最大級の公立博物館であるイギリスの大英博物館で、2013年10月、史上初めて春画をメインに扱った展覧会が開催される。大英が自ら所蔵する250点ものコレクションに加え、世界各地から春画の名作が一堂に会する予定だ。

 江戸時代の人々の性生活を赤裸々に描いた春画は、日本では近年ようやくその芸術的、学術的価値が認識されつつあるが、まだまだ一般的には「江戸期のポルノグラフィ」というイメージが強い。しかし、それは狭義の理解に過ぎない。

 春画は性の秘戯を描いた世界に稀なアート作品であり、当時の日本人の生活を映し出す貴重な文化的資料という側面も持っている。

 こうした考えは日本よりも海外で浸透している。

 今回の大英博物館の春画展プロジェクトは日英両国で4年前にスタートした。プロジェクトメンバーである立命館大学専門研究員の石上阿希氏が語る。

「春画は男女の性愛の姿をただエロティックに描いただけでなく、言葉や和歌を添え、その背景にある二人の関係などの物語を教えてくれます。技術面に目を移すと、摺りや彫りの最高技術が用いられており、その他の浮世絵や版画を凌ぐ高い水準を保っています。今回の展覧会では、そうした芸術性に加え、春画を通して、江戸の豊かな文化、社会の多様性を世界中の人々に知ってもらいたい」

 歌麿の傑作『歌満くら』は、西洋のオークションで7000万~8000万円という高値で取引されたこともあり、北斎ら他の一流絵師の春画も数千万円が相場だ。

 男女の秘め事をありのままに、かつユーモアを交えて活写した春画が、なぜそれほどまで芸術性を高めたのか。それは、歌麿や北斎に限らず、当代一流の絵師たちが先頭に立って制作に勤しんだことが大きい。幕府は春画に発禁令を出していたが、彼らが法を犯してまで春画を描いていた理由の一つは“自由度の高さ”だったとされる。

 当時、幕府は「寛政の改革」(1787~1793年)など、財政安定を目的に庶民の贅沢を繰り返し禁じた。浮世絵などの出版物は贅沢品にあたるとして、使用する色数を制限するなど、表現が限られるようになっていたのである。

 しかし、春画はもともと非合法の出版物である。それを逆手にとり、倹約令の埒外で自由な表現ができた。春画に活路を見出したスター絵師たちは、色や紙の制限を受けることなく、持てる技術を存分に発揮し、材料などはむしろ贅沢に使って、純粋に作品の芸術性を競い合った。春画は、当時の絵師たちの最高の表現手段だったのである。

■監修・白倉敬彦/取材協力・角田洋平

※SAPIO2013年2月号


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