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日銀総裁 岩田規久男氏ほか有力候補6人はどんな人なのか

 1月22日、政府と日銀は、日銀は物価上昇率2%の目標を導入することなどを骨子とする共同声明を発表した。これを受け、日銀は同日の政策決定会合で、2014年から期限を定めず、国債などを毎月13兆円買い入れて金融緩和を行なうことなどを決定した。次の焦点は、それを実行する総裁人事に移った。候補にあげられているのはどのような人々なのか、経済評論家の山崎元氏が解説する。

 * * *
 報道で総裁候補としてよく名前が挙げられるのは次の6人だ。岩田規久男氏(学習院大学教授)、竹中平蔵氏(元総務相・経済財政担当相、現慶應義塾大学教授)、岩田一政氏(前日銀副総裁、現日本経済研究センター理事長)、伊藤隆敏氏(東京大学大学院教授)、黒田東彦氏(元財務官、現アジア開発銀行総裁)、武藤敏郎氏(元大蔵・財務事務次官、元日銀副総裁、現大和総研理事長)だ。前に挙げた人ほど金融緩和に積極的、後に挙げた人ほど消極的である。

 6人のうち、安倍首相が言う「大胆な金融緩和を実行できる人」という条件だけで選べば、岩田規久男氏、竹中平蔵氏だろう。だが、それぞれ問題も多い。これまで一貫して「日本がデフレから脱却できない責任は日銀にある」と日銀批判の急先鋒に立ってきた岩田氏に対して日銀の抵抗は大きい。竹中氏は政治力があるがゆえに、野党ばかりか与党内にも敵が多い。

 それに比べると、岩田一政氏、伊藤隆敏氏は、いずれも金融緩和の方法として政府・日銀による外債購入も主張するなど、それなりに金融緩和に積極的で、なおかつ抵抗も少ないと思われる。ただ、岩田氏は日銀が2006年にゼロ金利解除を行なった時、一度は抵抗したものの、最終的には副総裁として賛成に回った“前科”があり、どこまで安倍氏の意向を反映できるか疑問もある。

 安倍首相の攻勢に対し、日銀は組織防衛で手一杯だ。日銀が2%の物価上昇率目標を設定したことで、安倍首相は日銀の独立性を弱める日銀法改正について言及しなくなったが、日銀の姿勢次第では再び持ち出す可能性はある。

 1960年代以降、総裁については、ほぼ一貫して財務(大蔵)事務次官経験者と日銀プロパーのたすき掛け人事が行なわれてきた。日銀が「財務省の植民地」と言われる所以だ。ところが、現在の白川氏まで3代続けて日銀プロパーが就いている。日銀としては本来はこれを続けたいが、日銀法改正という最悪の事態を避けるためには力のある財務省と手を組むしかない。

 一方、財務省は失地回復のために総裁ポストを取りたい。そこで有力候補に浮上したのが武藤敏郎氏だ。武藤氏は大物次官と呼ばれ、退官後は日銀副総裁に就任。2008年3月、福田内閣は彼を総裁に昇格させる人事案を国会に提出したが、民主党などの反対多数で参議院で不同意とされた。そうした経緯があるだけに、今回、財務省は失地と名誉を回復するために武藤氏を総裁に押し込みたいはずだ。

 この武藤案を後押しする姿勢を見せ始めているのが麻生財務相だ。麻生氏は総裁の条件として「語学力、組織を動かした経験、健康」の3条件を挙げ、財務省出身者も候補から排除しない考えを示している。財務省に恩を売り、自らの政治的立場を強めることを狙う言動とも取れる。

 武藤氏も総裁の座に意欲があるのか、講演で「日銀はチャレンジが必要だ」と述べるなど、積極的な金融緩和の必要性を訴え、安倍首相にアピールしているようにも見える。  もう一人の財務省出身者として黒田東彦氏が考えられる。ただ、黒田氏が就任する場合、アジア開発銀行総裁の職を辞任しなければならない。そうなると後任の座を中国に取られかねず、国益を考えるとマイナスになることを懸念する声もある。

 武藤氏、黒田氏いずれが候補になっても、すんなりと事は進まない。周知のように日銀の正副総裁は衆参同意人事だ。そして参議院において与党は過半数割れしており、キャスティングボートを握るみんなの党は財務省出身者に反対している。

 そこで問われるのが安倍首相の覚悟だ。財務省と本気の喧嘩をしてまで積極緩和派の人事案をまとめるのか、それとも衝突を避けて妥協的な人事を行なうのか。日銀の組織防衛、財務省の失地回復、財務相の政治的思惑、衆参のねじれ状態、そして首相の覚悟これら5つの要因が複雑に絡んで人事が決まるのである。

※SAPIO2013年3月号

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