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ウォルフレン氏「安倍首相が早く訪中していたら称賛浴びた」

 経済ではアベノミクス、外交では強気の対中姿勢で高い支持率を維持している安倍政権は、果たして世界にはどのように映っているのか。日本研究の第一人者であるK.V.ウォルフレン氏と、ニューヨーク・タイムズ東京支局長のM.ファクラー氏が初対談。「世界から見た安倍政権」の実態を語り合った。

ウォルフレン:そもそも、オバマ氏自身が日本に関心を持っているようには見えません。ワシントンの日本の扱い方が変化したということをよく考えなければならない。ヒラリー・クリントン前国務長官が対日外交のために国務省に集めた、日本をよく理解し親日であった外交官たちが次々とフェードアウトしています。

 メディアにおいても、ファクラーさんはわずかに残ったフルタイムの駐日特派員の一人ですが、一昔前と比較すると、外国メディアの特派員の数は減り、日本の新政権についての記事も少なくなった。

ファクラー:ウォルフレンさんがいったように、いまのオバマ政権には日本を知る人物がほんのわずかしかいません。その一方で、中国に詳しい人物は政権内にもっといる。中国は懸案事項であり、大きな問題ですから。日本よりも関心は中国にある。

 私の感覚としては、オバマ政権は日本にもっと自国の問題は自国で処理してほしいと考えているでしょう。米国は日本にいつまでも赤ん坊のようにケアしなければならない存在でいてほしくはない。彼らには、安倍氏がいうような「真の同盟を築く」ための、意思も余力もないでしょう。

ウォルフレン:安倍氏はその代わりに東南アジアを訪れたわけですが、残念ながら東南アジアも安倍氏の歴訪に興味など持っていない。私は最近タイに行った際、現地の政治アナリストに会いましたが、日本が米国を後ろ盾に対中包囲を進めようとしていることに、タイは全く関心を払っていません。彼らは中国との経済連携を進めたがっているから。

 私は安倍氏がこうしたことを本当に理解しているか疑わしく思っている。安倍氏の祖父である岸信介・元首相や、麻生太郎・副総理の祖父である吉田茂・元首相は、戦後、日本の国力強化を最優先課題とし、一時的に日本を米国の管理下に置いてこの目標を達成しました。そして、国力が整ったら米国の管理を脱して日本を真の意味での独立国とするつもりでした。

 この意味で二人は真の指導的政治家(ステイツマン)でした。しかし、安倍氏と麻生氏は祖父たちとは逆に、永久に米国の管理下にあり続けることが日本の安全保障だと考えており、不安を覚えます。

 私は、安倍氏が機会を失ったと述べました。安倍氏が政権発足当初に、中国との領土問題に対する平和的解決の糸口を持って北京を訪問し、これまでの合意に戻って話し合いましょうとでもいっていたら、日中両国の問題は部分的に解決し、今頃、政治家として世界からの賞賛に浴することもあったのではないでしょうか。

■カレル・ヴァン・ウォルフレン
 ジャーナリスト、アムステルダム大学名誉教授。1941年オランダ生まれ。1972年にオランダ『NRCハンデルスブラット』紙の東アジア特派員として来日以来、日本研究を続けている。近著に『いまだ人間を幸福にしない日本というシステム』(角川ソフィア文庫)など

■マーティン・ファクラー
 ニューヨーク・タイムズ東京支局長。1966年米国生まれ。ブルームバーグ東京支局、AP通信社各支局を経てニューヨーク・タイムズ日本支局記者になり、2009年より現職。昨年、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(双葉新書)がベストセラーになった

※週刊ポスト2013年3月1日号

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