ライフ

世界的影絵作家・藤城清治氏 被災地題材にした影絵展を開催

陸前高田の奇跡の一本松 (c)Seiji Fujishiro/HoriPro

 ここに掲載した影絵は、世界的評価も高い影絵作家・藤城清治氏(88)が描き出した被災地の風景だ。なぜ藤城氏は、作品の題材に被災地を選んだのか。藤城氏が作品に込めた思いを、ノンフィクション作家・稲泉連氏がリポートする。

 * * *
 光があり、そして影がある。

 ススキの穂、木の葉、道端の石、折れ曲がった鉄骨……。藤城清治さんは剃刀の刃によって、その一本一本、一葉一葉、一つひとつを確かに切っていく。思いを込め、命を吹き込むように。

 影絵作家の第一人者である彼は、宮沢賢治などを題材としたメルヘン作品を描いてきたことで知られる。しかし二年前の大震災以降、88歳にして選んだ舞台は被災地だった。

 福島県大熊町では、一面のススキに囲まれた小川に、鮭が上る光景に目を止めた。人々の暮らしが消え、しかし何も変わらない自然の中に、津波の痕跡と事故後の原子力発電所があった。「絵描きである以上、こうしたものを描かずして何を描くのか、と感じた」と彼は言う。

「一見すると使い物にならない瓦礫も、人間の様々な生きる思いが含まれた宝石のようなものです。想像を超えた自然の力によって壊されたもの、一本一本の素朴な草木の中に、人間の尊い思いが含まれている。描くのは難しいけれど、だからこそ、描き残す意味がある」

 かつて戦後の焼け野原を見たとき、たとえ絵具がなくとも、太陽や月や蝋燭の火の光さえあれば影が生まれ、表現が生まれることを知った。影絵作家としてのそんな原点が、長い歳月を経て、災害が作り出した風景と激しく交錯した。

「形を切るのではなく、そこに込められた思いを切る。そうやって全ての切り口に万感を込めることの繰り返しの中から、何かが作り上げられていく。それは人間が生きることそのものに似ているし、災害に遭っては乗り越えることを繰り返してきたその歴史とも重なると思うんです」

【プロフィール】
●ふじしろ・せいじ:1924年東京生まれ。剃刀一枚で作り上げられる影絵は世界的評価も高い。『銀河鉄道の夜』など宮沢賢治の童話の挿絵や装丁でも知られる。一昨年から震災をテーマに創作活動を開始、作品が話題を呼んでいる。現在・福島県うすい百貨店にて展覧会開催中(~3月18日)。その後、全国各地で開催予定。

※週刊ポスト2013年3月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト