スポーツ

具志堅用高「計量後にアイス食べなかったから防衛戦に負けた」

 いま、日本にボクシングの現役世界チャンピオンは9人いる。1952年に白井義男が日本人として初めて、ボクシング世界チャンピオンの座について以来、タイトルをかけた彼らの戦いは、多くの人に名勝負として語り継がれている。そのなかから、13度の世界防衛を果たし、「カンムリワシ」と呼ばれた具志堅用高氏を紹介する。

 * * *
「世界戦をやるぞ」

 ジムからアルバイト先のとんかつ屋にかかってきた電話が、当時の最短記録となる9戦目での世界奪取、13度防衛という「カンムリワシ伝説」の始まりだった。

 具志堅氏は当時をこう語る。

「信じられなくてジムに飛んで行った。だってプロで8戦しかしてないんだから」

 沖縄・興南高校でインターハイを制した具志堅用高は、拓大へ進学するために上京したところ、急遽、協栄ジムの熱心な勧誘でプロの道へと転じる。

 その協栄ジムでは金平正紀会長が「100年に1人の天才」として売り出したが、フライ級でのデビュー当時、世界は遠いものだった。

「アマチュア時代は最軽量のモスキート級。フライ級だと体も重くてきつかったね」(具志堅氏)

 だが幸運が訪れる。デビュー翌年、フライ級の下にライトフライ級が新設されたのだ。試運転の7戦目には、世界ランカーをKOで下し自信もつけた。

 とはいえ、世界戦の対戦相手は21勝(15KO)1敗のファン・グスマン。「リトル・フォアマン」の異名を持つ強打者で、戦前は圧倒的不利と予想された。 試合前の公開スパーリングでも、グスマンは具志堅の目の前でパートナーをど派手に倒した。

「怖くてねえ。殺されるんじゃないかと。試合前は何度も逃げようと思った」(具志堅氏)

 だが、リングに上がると自然と怖いという気持ちが消えた。果敢に攻める具志堅は2Rに左から右フックでダウンを奪う。3Rにグスマンのパンチをもろに食らい、腰が落ちかけたものの、その後も終始ペースを掴み、7Rに左から右をヒットさせてキャンバスに沈めた。

 その後、13度の防衛を果たすが、「グスマン戦が最も印象深い」と具志堅氏は話す。

「沖縄の国際通りのパレードで大勢の人が歓迎してくれて、本当に嬉しかったねえ」

 カンムリワシがその翼をたたむことになる14回目の防衛戦。具志堅氏は敗れた理由をこういって残念がる。

「計量後にいつもアイスクリームを食べていたんだけど、あの試合の時だけ、周囲に止められた。隠れて食べようにも、あの日は日曜日で沖縄の商店は全部休みでコンビニもない。あのとき食べてればよかったねえ」

 圧倒的な強さの秘密は、猛烈な練習と試合前に食べるアイスクリームにあったのだ。

●具志堅用高/1955年6月26日生まれ。沖縄県石垣市出身。1974年プロデビュー。24戦23勝(15KO)1敗。

※週刊ポスト2013年4月19日号

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
(左から)「ガクヅケ」木田さんと「きしたかの」の高野正成さん
《後輩が楽屋泥棒の反響》『水ダウ』“2024年ダマされ王”に輝いたお笑いコンビきしたかの・高野正成が初めて明かした「好感度爆上げドッキリで涙」の意外な真相と代償
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
フィリピン人女性監督が描いた「日本人の孤独死」、主演はリリー・フランキー(©︎「Diamonds in the Sand」Film Partners)
なぜ「孤独死」は日本で起こるのか? フィリピン人女性監督が問いかける日本人的な「仕事中心の価値観」
NEWSポストセブン
timelesz加入後、爆発的な人気を誇る寺西拓人
「ミュージカルの王子様なのです」timelesz・寺西拓人の魅力とこれまでの歩み 山田美保子さんが“追い続けた12年”を振り返る
女性セブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《私が撮られてしまい…》永野芽郁がドラマ『キャスター』打ち上げで“自虐スピーチ”、自ら会場を和ませる一幕も【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
(SNSより)
「誰かが私を殺そうとしているかも…」SNS配信中に女性インフルエンサー撃たれる、性別を理由に殺害する“フェミサイド事件”か【メキシコ・ライバー殺害事件】
NEWSポストセブン
電撃引退を発表した西内まりや(時事通信)
電撃引退の西内まりや、直前の「地上波復帰CMオファー」も断っていた…「身内のトラブル」で身を引いた「強烈な覚悟」
NEWSポストセブン
女性2人組によるYouTubeチャンネル「びっちちゃん。」
《2人組YouTuber「びっちちゃん。」インタビュー》経験人数800人超え&100人超えでも“病まない”ワケ「依存心がないのって、たぶん自分のことが好きだから」
NEWSポストセブン
入院された上皇さまの付き添いをする美智子さま(2024年3月、長野県軽井沢町。撮影/JMPA)
美智子さま、入院された上皇さまのために連日300分近い長時間の付き添い 並大抵ではない“支える”という一念、雅子さまへと受け継がれる“一途な愛”
女性セブン
交際が伝えられていた元乃木坂46・白石麻衣(32)とtimelesz・菊池風磨(30)
《“結婚は5年封印”受け入れる献身》白石麻衣、菊池風磨の自宅マンションに「黒ずくめ変装」の通い愛、「子供好き」な本人が胸に秘めた思い
NEWSポストセブン