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中国の食品汚染「薬漬けを教えたのは日本人」と現地水産業者

 中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏は、中国の食品問題についていち早く警鐘を鳴らしてきた。「中国産」のなかには危険な食品がある、という認識は広まったが、一方で富坂氏はこうも指摘する。

 * * *
 中国の食品事情が再び注目を浴びている。それは中国の当局が食肉にターゲットを絞って取締り強化週間を設けたからで、今週からその矢が乳製品に向けられる。いずれにせよおぞましい実態が続々明るみに出されることは間違いない。

 私は2007年、日本で毒ギョーザ事件が起きる半年以上前から『週刊ポスト』誌上でこの問題を連載。それを「中国ニセ食品のカラクリ」(角川学芸出版)として世に問うた。

 まだ類似の企画もなかったことを記憶している。昨今、再びこの問題が注目されているが、この問題を単に「中国の問題」としてだけとらえてしまえば、消費者利益の観点から少し外れてしまうということも指摘しておかなければならない。

 実は私がこの問題を書こうと考えたきっかけは、日本に来た中国の友人が、日本の居酒屋である種類の刺身や焼き物に全く手を付けなかったことだった。その人物は水産業に深くかかわっていて、実際に魚を養殖して日本向けに出していたので気になって聞いたところ、「養殖の現場を知っていれば、とても食べられたもんじゃない。病気で死ぬ魚が絶えないから薬漬けにする。過密で不衛生でも効率を考えれば選択肢はない。だからぶち込む薬もだんだん強くなるし、安くて強ければ禁止されていても使うしかないんだ。他の業者との競争もあるからね」と答えたのだ。

 そして同時に彼はこうも言った。

「このやり方を教えたのは日本人だ。当然だろう。中国人に売るために始めたことじゃない。養殖の方法と同時にたくさんの裏技も習った。初期には、日本で使えなくなった薬を大量に中国に持ち込んできたんだ。中国の罪は、これをさらに過激にしてしまったことだろうね」

 中国の食品業界に問題があることは言うまでもない。不衛生で食品安全に対する知識が圧倒的に不足していることに加えて、ときにとんでもない悪意が入り込んでくるからだ。そして刑罰さえも効果を失わせるほど深い絶望的貧困が常に社会に存在する問題が、重大犯罪を引き起こしてきた。

 だが、成長を促進する薬品や過密飼育で病気にかかる魚や家畜を抗生物質漬けにすることや、リンゴをワックスで磨いたりするケミカルな問題は、多かれ少なかれつきつめれば日本に帰ってくる問題でもあるのだ。

 もちろん、だから中国に罪はないとか自業自得だといった話をするわけではない。この問題を「日本VS中国」という視点で見るのは間違いであり、「食品生産者VS消費者」の視点から見ていかなければならないからだ。食品業界の抱える問題に光を当てない限り、中国以外の別の国でまた同じ問題が起きるだけの話だからだ。

 中国食品問題を取り上げた際、一部の人々から安全基準の不合格率は中国よりも高い国があるという反論があったが、そんなくだらない発想に陥ってしまいかねない。言うまでもなく食品安全問題は「中国だから悪い」という話でもなければ、「中国はまだましだから良い」という話でもない。

 この問題の背景にあるのが行き過ぎた効率の追求であることは、アメリカの食品事情を見れば明らかだ。興味のある方には「フード・インク」というドキュメンタリーを観ることをお勧めしたい。私はTPPへの参加に反対の立場ではないが、それでもこのDVDを観ると気が滅入るのである。

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