国内

兄に子が生まれた高松宮綴った「重荷のおりた様なうれしさ」

 近代日本で「天皇家の兄弟たち」はそれぞれの務めを果たしてきた。その歴史を小田部雄次・静岡福祉大学教授(日本近現代史)が紐解く。ここでは昭和天皇の弟・高松宮の苦悩について解説する。

 * * *
 海軍兵学校を卒業した高松宮は青年期、弟宮という立場に悩んでいた。昭和4年(29年)ごろの日記では「単にスペアーとして生きておるのが皇族であるとも云へない」と揺れる胸中を明かしている。
 
 この頃、昭和天皇に男子が生まれず、宮中は重苦しい雰囲気に包まれていた。皇子のいない天皇に「万が一」があれば弟宮が次の天皇となる。長兄のような帝王学を学ぶ場もないまま天皇になるかもしれない難しい立場であった。
 
 昭和8年(1933年)に明仁親王(今上天皇)、10年(1935年)に常陸宮正仁親王が生まれると、その頃の日記に「重荷のおりた様なうれしさ」を感じたと綴っている。
 
 昭和天皇に共鳴しつつも、高松宮は海軍軍人として兄とは異なる時局認識を持っていた。昭和12年(1937年)に日中戦争が勃発すると情勢分析の鍵となる上海視察を熱望したが、ついに昭和天皇から許可が下りなかった。そのいきさつについて日記には「『軍』と云ふ点にはかなり違ふものある御理解なりと感ず」と綴っている。皇室を守る一員として天皇の立場を尊重しながらも、その判断に時には批判的になることがあった。
 
 昭和15年(1940年)、宮城前広場(現在の皇居外苑)で催された「紀元二六〇〇年祭」にて高松宮は昭和天皇に捧げる奉祝詞の朗読と万歳三唱を行ない「臣、宣仁」と発言した。一君万民では皇弟でも臣下となる。弟宮自ら「臣」と宣言したことに国民は感銘し、皇弟が担がれることによる皇位簒奪を懸念した西園寺も安堵したという。
 
 しかし、昭和天皇と高松宮の間では時局が切迫するほど意見の違いが先鋭化したのも事実である。降伏後は昭和天皇がGHQ(連合国総司令部)の意図(天皇制の存続や皇族の範囲をどこまで残すかなど)を慎重に推し量る一方、高松宮はじめ皇族たちは昭和天皇の真意が見えず、苛立ちを募らせたことが高松宮の日記などからうかがえる。
 
 戦後しばらく経った昭和51年(1976年)、『文藝春秋』誌上で高松宮は秩父宮勢津子妃や三笠宮寛仁親王らと座談会を開き、「皇族の自由というものが制限されている」「選挙権もない」と扱いへの不満を赤裸々に述べた。昭和天皇はそれにいたく立腹したと伝えられる。

※SAPIO2013年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン