ビジネス

単独売り上げ100億円 水も油もいらない冷凍ギョーザの秘密

 マーケットが約6800億円の冷凍食品市場で、いま一番売れている商品が何かご存じだろうか。単独での売り上げが100億円超! 改善点を見いだすことすら難しかったガリバー商品「冷凍ギョーザ」のイノベーションの舞台裏に迫る。

 * * *
 味の素の冷凍『ギョーザ』が産声を上げたのは1972年。それから約40年間にわたり、右肩上がりの成長を遂げてきた超ロングセラー商品だ。1997年には油を引かずに焼ける画期的な技術も導入された。

「美味しい」「最高」「大好き」──。消費者から寄せられる声は絶賛の嵐。メーカーの思いと消費者の認識にズレが生じる「ニーズギャップ」もほとんどない、自他共に認める「完璧商品」だった。

 2010年、この商品開発部署に異動してきた稲垣英資は『クックドゥ』の姉妹ブランド『パスタドゥ』などの部署を経験していたが、「冷凍」事業を手がけるのは初めてだった。

 転機はすぐに訪れる。生産をしている全国の3工場の担当者が一堂に会する会議の場。

「ギョーザの皮に含まれる水分の比率について、それぞれの工場で小数点以下の単位について激論を交わしていたのです」

 その議論を聞きながら稲垣は思った。

「調理の際には水を入れるわけだから、小数点以下の比率を延々と討論する意味があるのだろうか──」

 稲垣は消費者に普段使っているフライパンなどの調理用具を持ち寄ってもらって実際に調理をしてもらう調査を始める。消費者がどのように調理しているのかを確認したかったのだ。

 その結果、驚くべきことがわかった。水量は目分量。レシピ通りしっかりと計って投入する人の方が少ないくらい。調理の途中でひっくり返したりこねくり回したり、中には電子レンジで解凍してからフライパンに置く人も現われた。

「それでも焼けたギョーザはそれなりに美味しく食べられる。しかし我々の狙った最高に美味しいギョーザを味わってほしいんです」

 調査結果を検証するミーティングで、誰ともなく「水なしで調理できたらいいですね―」という発言が飛び出した。そんなことができれば確かに便利だが、できるはずがない―。

 そんな稲垣の元に商品開発現場から「見てほしいものがあります」と声をかけてきたのが2011年10月。さっそく開発現場へ行ってみると、ギョーザがフライパンに取り出された。しかしよく見るとそのギョーザ、フライパンと接する底がいつもよりも分厚い。担当者によれば、その部分にギョーザを美味しく焼くために適量の水分を含めたという。

 稲垣はそれでも疑っていたが、フライパンを火にかけ焼き始めるとおよそ5分後にはギョーザがしっかりと焼けた。しかも、周辺には見事なぱりぱりの羽根ができている。

「常識を覆した商品だ。しかも12個でも1個でも同じように美味しく焼ける」

 しかし社内には心配をする声も少なくなかった。年間100億円も売る商品をリニューアルすれば、従来のファンが離れていかないか──。しかし稲垣は敢えて挑戦に出た。かくして水も油もいらない冷凍ギョーザが完成。リニューアル後、新規ユーザーが増えたという調査結果も出た。

■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年5月31日号

関連キーワード

トピックス

モデルで女優のKoki,
《9頭身のラインがクッキリ》Koki,が撮影打ち上げの夜にタイトジーンズで“名残惜しげなハグ”…2027年公開の映画ではラウールと共演
NEWSポストセブン
前回は歓喜の中心にいた3人だが…
《2026年WBCで連覇を目指す侍ジャパン》山本由伸も佐々木朗希も大谷翔平も投げられない? 激闘を制したドジャースの日本人トリオに立ちはだかるいくつもの壁
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相、16年前にフジテレビで披露したX JAPAN『Rusty Nail』の“完全になりきっていた”絶賛パフォーマンスの一方「後悔を感じている」か
女性セブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段どおりの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン