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「アベノミクス報道で冷静なのは外国ばかり」と長谷川幸洋氏

 金融市場の乱高下が続いているが、「日本の報道はアベノミクスの失速とか失敗とあげつらうばかりで、冷静に評価できていない」と話すのは、ジャーナリストの長谷川幸洋氏である。

 * * *
 日銀が大規模緩和に踏み切る前の株価水準に逆戻りした6月半ば以降は「アベノミクス失速!?」といった見出しがメディアで躍った(たとえば「週刊ダイヤモンド」6月22日号)。

 新聞の社説も朝日新聞が「魔法の杖はない現実」(6月14日付)と批判的に書いたかと思えば、読売新聞は「相場の変動に振り回されるな」(同)と政権の過剰反応を戒めている。

 株で損した人には気の毒だが、昨年11月以来、アベノミクスの下で急激な円安株高が続いていた。ここらでスピード調整してもおかしくないだろう。「山高ければ谷深し」という相場の格言もある。このまま高騰を続けていたら、むしろ後でもっと大やけどしたかもしれない。

 ただ、メディアが株価急落でアベノミクスの失速とか失敗とあげつらうのはどうか。もともと政策は為替や株式相場をターゲットにしているわけではない。まずはデフレを脱却し、その後、日本経済を中長期的な安定成長軌道に戻すことが狙いだ。

 そういう観点で新聞を読んでいると、記者が書いた解説記事や社説もさることながら、外国識者の見方が冷静で的を射ていることに気がついた。

 たとえば、朝日はノーベル経済学賞を受けたスティグリッツ教授にインタビューし(6月15日付)、毎日新聞は気鋭の政治学者として名高いイアン・ブレマー氏(ユーラシア・グループ代表)の寄稿を載せている(6月16日付)。

 スティグリッツはこう語る。

「アベノミクスの3本の矢(中略)は日本経済を立ち直らせる正しい取り組みだと思います。(中略)市場は常に不安定なものです。短期的な動きに目を奪われるべきではない」

 ブレマーもこうだ。

「アベノミクスはうまくいく余地がある。(中略)インフレで消費者の購買力が落ちたりしても、政策を撤回する必要はない」

 両氏とも基本的には安倍政権の政策を前向きに評価しているのだ。

 ただし、注意点を指摘するのも忘れていない。スティグリッツは格差是正に配慮するよう求めたし、ブレマーは政治学者らしく「ナショナリズムのわな」つまり「愛国心をあおることで、政治的な力を高めようとする誘惑」にかられないかと心配している。

 私も二人の見解に同意する。

 両氏のような定評ある識者が日本と日本経済について正面からコメントするのは久しぶりな気がする。これまでもあっただろうが、日本自身が停滞を続けて自信も失っていたので、外から何を言われても、いまひとつ真剣に受け止められなかった。言う方もたいして熱がこもってなかったのではないだろうか。

 日本経済が注目を集めるのは、やはり喜ばしい。安倍首相がロックアーン・サミットに出発した6月15日には産経新聞が米国、ドイツ、中国の見方を紹介した。米国からは政権が打ち出した成長戦略について「既視感もある」とか「具体策の遅れが長引くほど、有権者が幻滅するリスクが高まる」という有力紙の見方を伝えている。

 たとえ批判的な論評であっても、日本の政策について、しっかりとコメントが出てくるのは、まるで無視されるよりはるかにましだ。

 こうなると、日本の新聞も仕事が増える。記者や論説委員が解説するのも結構だが、ぜひ外国の見方を精力的に伝えてほしい。自虐的な見方に傾きがちな新聞に代わって激励してくれるのが、外国の識者というのは、やや情けない気もするが……。(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年7月5日号

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