ビジネス

薬ネット販売で偽造品リスク ED薬の55%がニセ物のデータも

 アベノミクス「第3の矢」の柱として掲げられた政策が、「医薬品のネット販売解禁」である。全医薬品の99%のインターネット販売を認め、消費者の利便性は向上する──という主旨であるが、国民の「健康」「安全」に直結する医薬品を「利便性」だけで語ることに危険はないのだろうか。

 ネット解禁を巡る議論は、最後まで噛み合わないまま“見切り発車”となった。

 賛成派である政府の産業競争力会議や規制改革会議が「利便性が高まり、経済が活性化する」と唱えたのに対して、反対派である薬害被害者団体、日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会などは「利用者の健康被害リスクが高まる」と主張した。

当然、「利便性VS安全性」の論争に結論が出るはずもない。だが、安倍首相は6月5日に発表した「成長戦略第3弾」の中で、「インターネットによる一般医薬品の販売を解禁する」と宣言した。“日本の成長に不可欠な政策”であると位置づけたのだ。日本薬剤師会の藤原英憲・常務理事(医学博士)が語る。

「我々はネット販売による利便性向上を否定しているわけではありません。しかし、薬が流通しやすくなれば、副作用や誤使用による健康被害の危険も比例して広がることになる。

“医薬品が適切に使われることによって国民の健康を確保する”という任務を負う薬剤師の立場として、到底賛成できない。だが、そうした意見は“利便性”や“規制緩和”という言葉で完全に無視されてしまった」

 今や「ネットで買えないものはない」時代である。15歳以上のネットショッピング利用率は40%弱に達した。しかし、その利便性が医薬品にまで及ぶことについて、藤原氏は警鐘を鳴らす。

「解禁派は電化製品や雑貨を買うのと同列に医薬品を扱いますが、不良品であれば返品できる商品と違って、医薬品は体に取り込んで初めて異常に気づくのですから、その時には取り返しがつきません。また、その薬が体質や病状に合っているかどうかを事前に利用者が判別するのは極めて難しい」

 つい忘れがちだが、医薬品は人体にとって“異物”であり、病状を改善させる効能と引き替えに、多かれ少なかれ副作用という“弊害”を伴う。

 2007~2011年までの5年間で、一般医薬品による副作用報告は1220例(うち死亡は24例)あり、その中には副作用リスクが低いとされる第2類の総合感冒薬(いわゆる風邪薬)の事例が404例もある。また、2010年に劇薬指定を解除されたロキソプロフェン(「ロキソニン」などで知られる消炎鎮痛剤)では年間約200例の副作用報告がある。

 それを未然に防ぐ、あるいは最小限に止めるのが、まさに薬剤師ら医療従事者の責務であるのだが、「ネット販売ではその機能が十分に働かない。ネット販売でも安全性を担保できる仕組みを作るのが優先なのに、“まずは売ってみて、その後に対策を整える”というのは無責任の極みで、壮大な人体実験とさえいえます」(藤原氏)という。

 また、ネット販売には「偽造品」を掴まされるリスクが指摘されている。本誌6月7日号では米ファイザー社の「バイアグラ」をはじめとするED(勃起不全)治療薬のニセ物が中国などの闇工場で製造されている問題を報じた。

 製薬会社の調査では、驚くことにネット販売で扱われるED薬の55%がニセ物であり、まさに偽造品流通の温床となっている実態がある。

※週刊ポスト2013年7月5日号

関連記事

トピックス

真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン
今年の”渋ハロ”はどうなるか──
《禁止だよ!迷惑ハロウィーン》有名ラッパー登場、過激コスプレ…昨年は渋谷で「乱痴気トラブル」も “渋ハロ”で起きていた「規制」と「ゆるみ」
NEWSポストセブン
アメリカ・オハイオ州のクリーブランドで5歳の少女が意識不明の状態で発見された(被害者の母親のFacebook /オハイオ州の街並みはサンプルです)
【全米が震撼】「髪の毛を抜かれ、口や陰部に棒を突っ込まれた」5歳の少女の母親が訴えた9歳と10歳の加害者による残虐な犯行、少年司法に対しオンライン署名が広がる
NEWSポストセブン
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
《新恋人発覚の安達祐実》沈黙の元夫・井戸田潤、現妻と「19歳娘」で3ショット…卒業式にも参加する“これからの家族の距離感”
NEWSポストセブン
キム・カーダシアン(45)(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストの元妻の下着ブランド》直毛、縮れ毛など12種類…“ヘア付きTバックショーツ”を発売し即完売 日本円にして6300円
NEWSポストセブン
レフェリー時代の笹崎さん(共同通信社)
《人喰いグマの襲撃》犠牲となった元プロレスレフェリーの無念 襲ったクマの胃袋には「植物性のものはひとつもなく、人間を食べていたことが確認された」  
女性セブン
大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン