ビジネス

メルマガ発行会社が池上彰氏と津田大介氏の共著を出した理由

津田大介氏らの共著『メディアのしくみ』を持つ井之上氏

精神科医の名越康文氏、人気ブロガーのやまもといちろう氏など、著名人のメルマガを発行する「夜間飛行」から7月、池上彰氏と津田大介氏との共著『メディアのしくみ』が刊行された。「なぜメルマガ会社が紙の書籍を出すのか?」という疑問を、夜間飛行社長・井之上達矢氏に聞いた。

――これまでメルマガを発行してきた夜間飛行が、なぜ今回、紙の書籍を出すことになったのですか?

井之上:私どもとしては「紙の本を出す」というのは、最初期から構想の中にあった、ごく自然な流れなんです。2011年3月のメルマガ配信開始の時から、私としては、夜間飛行を「メルマガ発行会社」ではなく「出版社」なのだと位置づけてきました。

メルマガでも紙の本でも、コンテンツが持っている可能性を最大限に引き出していく。その意味で私は夜間飛行を「出版社」と位置付けているんです。既存の出版社がメルマガを出してもいいし、メルマガ発行会社が紙の本を出してもいいはずですよね。

ここ数年、出版界では電子書籍も話題ですが、新しいテクノロジーも古いテクノロジーも含めて、使えるものはすべて使い、そのコンテンツを読者にとってもっとも幸せな「形」で提供する。それがこれからの「出版社」の仕事だと考えています。

――初の「紙の本」となる『メディアの仕組み』には、夜間飛行のこれまでの強みを活かした仕掛けはあるんでしょうか?

井之上:テレビ、新聞、ネットとそれぞれの役割が見直されている時期だと思うんです。その役割や、その信頼性において、従来の常識が通用しなくなってきた。それで、とりあえず「今のメディアのトリセツ(取扱説明書)」が必要とされている気がしたんですね。どうせ解説してもらうのであれば、テレビメディアを代表する池上彰さんとネットメディアを代表する津田大介さんというトップランナーの二人にお願いしたいということで、企画が立ち上がりました。

 技術的な面での「仕掛け」としては、紙の本に電子書籍版のダウンロード権をつけたことです(初版のみ)。これによって、購入した方が「電子書籍として読みたい」という理由で紙の本をわざわざ裁断し、スキャンするいわゆる「自炊」というナンセンスな方法を取る必要がなくなります。

 もちろん、ここには実験としての側面もあります。もしかすると「紙の本」を買う人は、電子書籍版を必要としない可能性もある。あるいは、今回の本は電子書籍版を単体で購入することもできますので、それを購入する人は「そもそも紙の本など必要ない」と言うかもしれませんよね。

いずれにしてもこれからの「出版社」に必要なことは、著者に「発信の技術」を提供するということです。それは単に「紙の本をつくる」「電子書籍をつくる」「メルマガを出す」ということに留まりません。新人作家には文章や物語の組み立て方のアドバイスが必要でしょうし、ジャーナリストの卵には取材の仕方から入る必要があるかもしれない。一線で活躍される作家の方にも、経験豊富な編集者からのフィードバックは、作品のクオリティを上げていく上で必要不可欠です。
 
夜間飛行もまだまだ発展途上ですが、そうした「出版社」のコアとなる機能を追求していきたいと考えています。


関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン