国内

山口放火殺人 平家の落人伝説が語り継がれていた場所だった

 山口県周南市金峰の集落で5人が相次いで殺害された事件で、重要参考人として行方をくらませていた同じ集落に住む63歳の男が、7月26日に身柄を確保された。

 駅前の市街地を抜けると、後は街灯なき暗闇が延々と続く。JR徳山駅(山口県)から車で約1時間──。中国山地の一画を形成する金峰山(標高790メートル)への一本道を縫うように進むと、斜面にへばりつくような家々がポツポツと見えてくる。

 惨劇の舞台となった金峰郷(周南市)。現場周辺を必死に捜索した山口県警捜査員は400人を数えた。さらに周囲に群がる報道陣によって異様な緊迫感が伝わってくる。その光景を眺めながら地元雑貨屋の店主が呟いた。

「捜査員も大変だろうねェ。この辺りの山々は中国山地の一部だから、土地勘のある人間なら山を通って広島にでも島根にでも割と簡単に行けちゃう。

 奥深くいけば横穴や洞窟がたくさんあって、そういうところに潜めば山狩りしたってなかなか見つけられるものじゃない。ここら、平家の落人伝説まで語り継がれるぐらいですから」

 実際、金峰郷からほど近い山間の集落は、壇ノ浦で滅びた平家一族の残党が逃げ込んだとされる地域だという。「平家岳」などの所縁の地名も数多く残る。金峰郷の近くに住む古老はこんなことも言った。

「このあたりは、“七人みさき”ゆう、ごんごんち(山口弁で妖怪を意味する)がおる、言われとります。日が落ちてお坊さん姿の七人の幽霊が鐘をならしながら連なって通りよる。それに会うた女子どもはさらわれる、ゆうものですわ。夜のうちに起きた今回の事件も、亡くなった方は何かの『祟り』じゃないか、という人もおります」

 この種の怪談が生まれるのもしかりと思うほど、金峰郷には奇妙な静けさと漆黒の闇が広がっていた。

 ここでは、携帯すら繋がらない。隣家まで200メートルという家も珍しくはない。周南市役所によれば、六月末時点で金峰郷には8世帯14人が住んでいたという。男性7人、女性7人。そのうち60歳未満は3人しかいない超高齢過疎地帯である。今回亡くなった5人の被害者も、皆70歳を優に超えている。

「ここの主要産業は林業で、その林業に附随した産業としてのシイタケ栽培も盛んでした。でも、そういった産業が斜陽化してくるに伴い、過疎化が進んでいきました。現時点では具体的な復興策も見つかってない」(周南市役所中山間地域復興課)

 また訪問介護施設職員は、「ここは、いわゆる“限界集落”です。介護している人が60代というような老々介護の世帯も多い。私たちは『孤独死』を出さないことを目標に、日々見回りを続けていましたが、まさかこんなことになるとは……」と肩を落とした。

※週刊ポスト2013年8月9日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン