ライフ

小林よしのり氏「わしが『余命半年』の母を見舞わぬ理由」

 親が「余命半年」と宣告された。そのとき子がすべきことは、とるものもとりあえず親のもとに駆けつけることだ──そうみんなが思っている。

 だが、「わしは見舞いに行かない」と、『ゴーマニズム宣言』で知られる漫画家の小林よしのり氏は断言する。家族観と死生観に大きな一石を投じる、以下、同氏による禁断の「ごーまん」である。

 * * *
<母がガンで余命半年を宣告された。本来なら直ちに帰省して、母の手を取り、同情してみせるのが常識なのだろう。親戚関係は次々に母の病室を訪れ、「よしのりはなぜ帰ってこないのか?」と文句が出ているらしい。だが締め切りがあるから帰れない>

 こうブログで書いたところ、想像以上の大きな反響があった。ネットでは当然、「親不孝者」の大合唱で、わしが出演したネット番組では「母危篤、さっさと帰れ」といった匿名の書き込みまで現われた。

 母は危篤ではない。わしは危篤なら帰るが、「余命半年」と宣告されただけで、まだ元気なうちは帰らないといっているだけだ。しかし、こうしたネットの反応は、まるでわしの親戚と同じである。これが世間というものなのだろう。

 わしがブログで書いたことに、「家族や親戚が読んだらどうする」といった声も聞くが、むしろ逆だ。それこそがブログで書いた理由である。80歳になる母は、父が7年前に死んだため、故郷・博多でひとり、わしの買ったマンションに住んでいる。

 わしには妹がおり、また母の姉妹もいるため、医者に「余命半年」といわれたところ、彼らを中心とする親戚連中が次々と母のもとを心配して見舞い、口々に「よしのりはどうした」「なぜ来ない」という話になったという。わしの妻は一度だけ見舞いに行ったが、わしが行かないから非難は止まない。

 とはいえ、誰かひとりに滔々と説明したところで、田舎の親戚は必ず自分の意図を加味して伝聞していく。たとえば、わしが妹に伝えたとしたら、妹は絶対に「わしに介護を押し付けたい」という目論みを加味して親戚に広めていくことだろう。

 伝聞から伝聞で真意が歪められるのが嫌だから、ブログでいうことにしたのだ。わしは何も二度と博多に帰らないといっているわけではない。仕事の締め切りが立て込んでいるいまは帰れないといっているだけだ。

 今年で60歳になるわしに母親がいることが不思議なくらいで、80歳でガンになっても、それはいよいよ寿命が来た、というだけだ。それに、老人性のガンは進行が緩やかだ。余命半年といっても、すぐにどうこうという話ではない。

 現に母は、検査入院から退院して2日後にはもうカラオケで大熱唱していた。妹からガンの様子について、「レントゲンで見たら、まだ米粒くらいだった」と聞いた途端に、母は大好きな氷川きよしの追っかけを再開した。マンションにきよ友(きよしファンの友達)を呼んでおしゃべりに興じ、熊本コンサートのチケットを購入するよう妹に頼んだ。

 元気どころか、余命を宣告されてから、ますます我欲がマックスになっている。ところが、親戚連中は「ガンで余命半年」と聞いてしまうと、「大変な事態が起きた」「母がかわいそうだ」「何かしてあげなければ」と、一目散に駆けつけて“心配する演技”をする。何もできないくせにである。

 余命を宣告された人のもとを親戚が囲んで気遣うという世間のイメージ通りにしたいのだろうが、わしには「世間体」を気にしているようにしか見えない。

 しかも厄介なことに、その世間体をわしにも押し付けてくる。親戚連中が「わたしのほうが思っている」「いや、わたしのほうが思っている」という“思っている合戦”を繰り広げるなかで、ひとり帰って来ないわしが「それに比べてよしのりは親不孝者だ」というレッテルを貼られている。

 まだ母が元気にもかかわらず、世間体に従って仕事を放りだして直ちに帰省し、母の手を取って「お母さん! 最後まで看取ってあげるからね!」と“演技”しろというのか。なんとしらじらしい。

※週刊ポスト2013年8月16・23日号

関連記事

トピックス

裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン