【書評】『たたかえ!ブス魂 コンプレックスとかエロとか三十路とか』ペヤンヌマキ著/KKベストセラーズ/1344円
【評者】香山リカ(精神科医)
男と女、どちらが生きづらいか? こんな議論になると、女性は決まって「オンナのほうが生きづらい」と主張する。なぜか。男性の場合は、“実力ひとつ”で評価される傾向にあるが、女性は自分のがんばりだけではどうにもならない“外見”と“若さ”が評価の決め手になることが多いからだ。
本書の著者、ペヤンヌマキ氏は、女性のAV監督だ。そう聞けば「よっぽどエロい女なんだろう」と思う人もいるはずだが、そうではない。ペヤンヌ氏は子どもの頃から“地味な子供”である自分にコンプレックスを抱き、「ブス」と呼ばれる恐怖におびえ、そんな自分をリセットするために必死で勉強して第一志望の大学に合格。
しかし、東京でせっかくできた彼氏が風俗に通っていた事実に再びどん底につき落され、「AVの現場で働いたら、彼氏の風俗通いも平気になれるかも」という悲しすぎる動機からAVのスタッフになる。
おもしろいのは、半ばやけっぱちで飛び込んだAV業界に、ペヤンヌ氏が思わぬ居場所を見つけるところ。これまでコンプレックスだった“存在感のなさ”が、逆にドキュメンタリータッチのAVでは強みとなり、女優たちがポロッと素の自分を見せてくれる。
そうやって接していくと、これまで自分とは無縁の存在だったAV女優も、やはり女としての品定めをされながら、さまざまなコンプレックスを抱えて生きてきた人たちであることを知り、彼女たちに尊敬の念さえ抱くようになるのである。
自信喪失の極致で飛び込んだAV業界で次第に注目され存在感を発揮していったペヤンヌ氏は、その名も「ブス会*」という演劇ユニットを立ち上げ、これまで3回の公演を行った。女のコンプレックスや醜い嫉妬などをリアルに取り上げた舞台は、その世界観に共感して集まる女性ファンたちを励まし、生きる勇気を与えている。
基本的には笑える本だが、生きづらさを乗り越えようとする女の力強い一代記でもある。「あまちゃん」の次は「マキちゃん」でぜひ連続ドラマ化してほしい!?
※週刊ポスト2013年10月4日号