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カッとなり殺人に発展も 抑制力のない人増加した理由は何か

 毎日報じられない日はない殺人事件のニュース。介護疲れの末に、あるいは恋愛や金銭関係のもつれから…。事情はさまざまだが、それにしてもあまりにも簡単に人を殺す人が多すぎないだろうか。

 9月13日、午前6時すぎ。京都市東山区にある華頂短期大学構内で凄惨な殺人事件が起きた。警備員の白江義彦さん(58才)は出血性ショックで死亡し、京都府警東山署は住所不定無職の大迫真一容疑者(22才)を現行犯逮捕した。

 大迫容疑者は取り調べに平然とこう答えた。

「大学の地下駐車場で一夜を過ごし、朝起きて散歩していたら、警備員に“敷地内から出ていってくれ”と注意され腹が立った。最初から殺すつもりで殴った」

 白江さんは警備員としての職務を果たしただけ。それを腹が立ったという理由で殺す。このあまりに理不尽な言い分には、驚くばかりだ。

 昨年夏に警視庁が行った「体感治安の向上と身近な犯罪の被害状況」という調査によると、「自分や家族が何らかの犯罪に巻き込まれるかもしれない」と不安に感じている人は、全体の77.3%にのぼった。

 また、今年2月に行われた第4回同調査では、街で発生する暴力事件について、「とても増えている」「増えている」と感じる人が45.1%に達した。つまり暴力事件が増えていると感じる人が全体の半数近くもいる。これが世界で最も安全といわれる国の実態なのだ。

「なぜそう感じるのか」を尋ねると、以下の回答が上位を占めた。

◎キレやすい人が増えた 76.6%

◎規範意識の低下 71.5%

◎暴力に関する刑罰が軽い 45.2%

 キレやすい人間は確かに増えている。象徴的なのが、鉄道駅員に対する暴行件数の増加だ。

 2012年度に私鉄16社の駅や車内で発生した駅員、乗務員への暴力行為は計231件を数え、統計を取り始めて以来、ワースト2位を記録した。2008年度から5年連続で200件を超えている。

 JR東海も2012年度の駅員への暴力行為が155件と過去最高となり、集計を開始した2005年度の69件から倍以上に増加している。私鉄、JRともに酔客による暴力が目立つが、「車内で喫煙している乗客を注意したら殴られた」「終点で声をかけたら蹴られた」など迷惑行為を注意したり、何も落ち度がないのに突然暴行を受けるケースが目立ったという。タクシーの運転手など、無抵抗の相手への暴行事件も後を絶たない。

 誰でもついカッとなることはある。かといって、それが殺人にまで発展するケースはあくまでも特殊ではないのか。

 東京工業大学名誉教授(犯罪精神医学)の影山任佐さんは、「人を殺す可能性はどんな人にでもある」と強調する。

「人間はさまざまな要因が重なって人を殺すにいたりますが、最も大きな要因はその人に衝動性や攻撃性に対する抑制力がないこと。血が流れようが、相手が命乞いしようが、それでもブレーキがかからない。まわりが見えなくなるほどの興奮状態が続いてしまうんです。実はこの抑制力をもっていない人が増えていて、もはや誰もがその可能性を秘めているのです」

 今年6月、広島で起きたいわゆる「LINE殺人事件」もその典型だ。きっかけはお互い親友と呼び合う16才の少女のちょっとした言い合いだった。それがLINEでやり合う中でエスカレートしていく。

「殺したるわい」

「来いや」

 いつしか後戻りできないところにまでなり、ひとりの少女を7人の男女で顔がわからなくなるほど殴打し、山中に棄てた。

 影山名誉教授の指摘するように、「抑制力」がないことがより重大な犯罪の入り口となったことは間違いない。

 日本人の心理や文化に詳しい国際日本文化研究センターの鈴木貞美名誉教授は、そうした抑制力をもたない日本人が増加した理由をこう分析する。

「最近の日本人は人を殺してはいけないという倫理感が壊れた上にストレスを過剰にため込み、他者とコミュニケーションできない人が多い。“私は怒っています”という感情を言葉で伝えることも、口喧嘩してガス抜きすることもない。それができないからギリギリまでため込んで、突如それが噴出し、暴力となって表れる」

 かくして、「腹が立った」「ムカついた」「イライラする」など、些細な理由で人を殺してしまうわけだ。

※女性セブン2013年10月10日号

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