スポーツ

ゴルフの聖地下見した青木功「河川敷そっくり」と荒川で特訓

 松山英樹や石川遼のように日本のプロゴルファーが海外ツアーに参戦することはめずらしくなくなった。先駆けること40年前、青木功氏(71歳)は世界の強豪との戦いに挑んだが、最初はなかなか結果が出なかった。国内ツアーに専念すれば楽に賞金を稼げたのに、なぜ海外ツアーにこだわり続けたのか、青木氏が語った。

──国内のプロゴルフツアーで活躍する一方、1970年代から海外へ果敢に挑戦し、世界の名だたるゴルファーたちと数々の名勝負を演じた。なぜ海外に挑戦し続けたのか。

青木:最初は海外の試合に出ても予選落ちばかり。日本で稼いだ賞金を使い果たすと帰国し、国内ツアーで稼いでまた海外に出かける──そんな繰り返しでした。日本では賞金王になって一番上手いはずなのに、世界の檜舞台に出るとまったく歯が立たない。実に悔しい思いをした。

 負けて終わりにしたくありませんでした。お金の問題ではありません。一度でも上の世界に飛び込んでしまうと、どんなに打ちのめされても、その場に身を置いてみたくなる。一流のゴルファーたちと一流のコースで戦っているのだという緊張感、充実感は言葉では言い表わせません。

<青木功(あおき・いさお)。1942年、千葉県生まれ。1964年にプロ入り。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝、国内賞金王5回。1980年の全米オープンでのジャック・ニクラウスとの死闘は今でも語り種になっている。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。2008年紫綬褒章受章。現在も海外シニアツアーに参戦している。>

──1964年にプロテストに合格しても、なかなか勝てなかった。

青木:予選落ちが続き、あっという間に3~4年が経過しました。初優勝したのがプロ入り7年目の29歳直前とかなり遠回りした。しかし、足踏みしていた時期から這い上がって掴んだ自信は大きかった。初優勝が遅かったから、こうやって70歳を超えてもプロゴルファーを続けられるのだと思います。

──弱点克服のためにどのような努力をしたのか。

青木:1973年冬、正確なボールを打つために、自分の持ち球であるドローボール(フック回転の球)をフェードボール(スライス回転の球)に変えようと決心し、同級生プロの鷹巣南雄がいた千葉県の鹿野山カントリークラブに40日間、閉じ籠もって必死に練習しました。グリップの上を粘着テープでグルグル巻きにしてもらい、一日中球を打ち続けた。その結果、その年は日本プロゴルフ選手権などで6勝し、賞金ランクも2位となりました。

──今、後輩たちが海外に挑戦しているが、思うように結果が出ていない。あなたはなぜ結果を残せたのか。

青木:1977年、初挑戦した全英オープンでは予選落ちしました。その悔しさもあって、翌年の開催コースのセントアンドリュースを下見。「なんだ、日本の河川敷そっくりじゃないか」と思いました。そこで荒川の河川敷コースを英国のリンクスに見立てて特訓しました。

 その甲斐あって翌年の全英オープンでは、初日に68でトップに立ちました。結局、首位に4打差の7位タイで終わりましたが、優勝したニクラウスやベン・クレンショーらと熾烈な争いをしたことが大きな自信につながりました。

<そして1980年の全米オープンでは帝王ジャック・ニクラウスと息詰まるデッドヒートを演じた。

 3日間戦ってニクラウスと6アンダーで首位に並んだ青木。最終日、前半で2打差をつけられるが、インに入ると10番でニクラウスがバーディをとれば、青木はグリーンの外から直接カップインして食い下がる。11番から16番までともにパー、17番は両者バーディと譲らない。勝負はパー5の最終18番にもつれ込み、青木がサンドウェッジで放った第3打は惜しくもカップをかすめる。結局、ニクラウスがバーディパットを沈めて青木を振り切った。>

──伝説の死闘はとてつもない重圧との闘いでもあったのではないか。

青木:まさか初日から最終日まで4日間ともニクラウスと回ることになるとは思いませんでした。完全なアウェイの雰囲気で、しかも難しいコースでした。私は自分のゴルフをやるだけと言い聞かせてプレーしました。試合後、ギャラリーの間から、2年近く勝利から見放されていたニクラウスに「ジャック・イズ・バック」、私には「エイオーキ」のコールが沸き起こりました。

 勝負の世界では優勝と2位では雲泥の差があるのですが、完全に自分の力を出し切ったという充実感がありました。

※SAPIO2013年11月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン