ライフ

液晶画面触りリール操作「これは釣りだろうか」と専門家疑問

 どの分野も技術の進歩はめざましい。釣りの世界でもそれは同じだ。液晶画面をタッチするだけで可能になった最新式の釣りについて、長年、全国各地を釣り歩いてきた高木道郎氏が疑問を呈する。

 * * *
 釣りは魚との対話である。海との対話ともいうが、いずれにせよ釣りは自然と語り合う遊びだという意味だ。

 釣糸を海へ垂らす。糸を通して海や魚が語る言葉に耳を澄ます。それは流れの方向や強さや厚みであったり、水温、海底の起伏、明るさ、エサをくわえるモゾモゾという動きから感じ取れる食い気であったりする。反応が鈍ければほんのわずか狙うタナを深くしてみたり、オモリを軽くしてハリスを潮になびかせたりする。
 
 傍から見たら釣りほど呑気な遊びはないが、じつはボケーッと釣糸を垂らしているわけではない。もう少しタナは上か。水温が下がったかもしれないからタナを下げてみるか。おや、潮が動き出したぞ。今日の魚は食い気があるな。そんなことをつぶやきながら一投ごとに仕掛けに手を加えたりしているのだ。一匹の魚を手にするまでのそういう対話こそが釣りの醍醐味だともいえる。

 ところが、久しぶりにテレビの釣り番組で船釣りの様子を見て愕然としてしまった。釣り人が竿を船縁の竿受けに置いたまま、電動リールの液晶画面をタッチすると、ピピピッと反応したマイコンの指示で電動リールが勝手に仕掛けを下ろしはじめたのである。

 釣り人はリールとセットになった魚群探知機の画面に見入って、竿さえ手に持たない。そのうちに竿先がしなるとリールがうなりを上げて巻き上げ、魚の引きに応じて巻き上げ速度を微調整する。釣り人は竿の曲がりを見ながら「いい引きだ、大きそうだ」などと隣の釣り人と話し込んでいる。
 
 ピーッと甲高い音がすると釣り人は竿を起こして仕掛けをたぐり、魚を取り込んでハリを外す。エサを刺して仕掛けを垂らすとふたたび電動リールが勝手に釣りをはじめる。対話も何もない。
 
 これは釣りだろうか。少なくとも私の思い描く釣りの姿はそこにはなかった。

文■高木道郎(たかぎ・みちろう):1953年生まれ。フリーライターとして、釣り雑誌や単行本などの出版に携わる。北海道から沖縄、海外へも釣行。主な著書に『防波堤釣り入門』(池田書店)、『磯釣りをはじめよう』(山海堂)、『高木道郎のウキフカセ釣り入門』(主婦と生活社)など多数。

※週刊ポスト2014年1月31日号

関連キーワード

トピックス

大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《セレブな5児の母・宮崎麗果が1.5億円脱税》「結婚記念日にフェラーリ納車」のインスタ投稿がこっそり削除…「ありのままを発信する責任がある」語っていた“SNSとの向き合い方”
NEWSポストセブン
峰竜太(73)(時事通信フォト)
《3か月で長寿番組レギュラー2本が終了》「寂しい」峰竜太、5億円豪邸支えた“恐妻の局回り”「オンエア確認、スタッフの胃袋つかむ差し入れ…」と関係者明かす
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン