外から吸収したものに工夫や洗練を凝らし、独自の世界を創出するまさに日本的文化の一つが歌舞伎なんです。
この日本人的能力を文化の面で発揮できたら良いのに、と常々思っています。
お客様の中には、海外の赴任先で外国の方々から歌舞伎のことを聞かれて返事ができなかった、それで日本に帰って早速観に来ました、とおっしゃる方もいらっしゃいます。
皆さん外国のことは大変よくご存知なのに、日本のこと、特に伝統芸能はご存知ない。もちろん戦後は国中が焦土と化した中で先輩方は文化を顧みる余裕もなく働き、そのおかげで今がある。でもこの辺りで文化に関しても腰を据えて見直し、震災の時に助けて下さった方々への恩返しとして日本の文化力を世界に発信してもいいのではないか。
いかにグローバル時代とは申せ、まずは己を知り、自国の文化を知ることから始めなければ、真の国際感覚は成りゆきません。その点、歌舞伎はいいですよ。お芝居を観るだけで日本的な人情や文化がわかり、外国の方はもちろん日本人が日本を知るためにも格好の総合芸術……と、多分に我田引水ですが(笑)。
例えば時の流れを少しだけ巻き戻していただき、二時間を一刻と数えていたころのゆったりした時空に身を置いてご覧下されば、人としてのあり方やこの国の国柄など様々なものが見えてくるのではないでしょうか。人生、早くも遅くも結局行き着くところは同じ。ゆったり豊かに参りましょう。
※SAPIO2014年2月号