“革命的な”ふとん乾燥機が売れている。2013年10月に店頭発売されるや、あっという間に人気商品となった象印マホービンの『スマートドライ』だ。
「当社は1998年を最後に、ふとん乾燥機市場から撤退していました。低価格競争に巻き込まれてしまったのが主な原因です」
『スマートドライ』の商品企画を担当する第二事業部の安藤裕樹(ゆうき)は振り返る。だが、ふとん乾燥機自体はコンスタントに年間40万台も売れており、さらに花粉やPM2.5の影響で今後さらなる成長が見込める市場でもある。
撤退後12年がたった2010年、商品企画チームは、ふとん乾燥機市場への再参入を社内に提案した。
だが社の上層部は、一度撤退した苦い経験から、決断は慎重だった。なかなか商品開発のOKが出ない。膠着状態を打破したのは、事業部長の一言だった。
「差別化を図り、他社を凌駕する製品にすること。これがゴーサインの条件だ」
そこで商品企画チームは、ふとん乾燥機のウィークポイントを探しだすことから始めた。
「従来のふとん乾燥機の欠点は、使用後の収納がとても面倒なことでした。とくに温風をふとんの中に送り込むマットを畳むのが大変。そのため、購入しても次第に使わなくなり、物置に仕舞われてしまうことも多かったのです」
そこで彼らが考えたのは、マットに心棒を入れることで畳みやすくし、収納時間を他社製品に比べ3割短縮することだった。
自信満々で試作品を持ってきた商品企画チームの面々に、開発のゴーサインを出した事業部長は険しい顔でいい放った。
「時間を費やして考え出したアイデアがこれか? こんなもので他社を凌駕できると思ってるのか?」
狼狽する彼らに事業部長はたたみかける。
「収納に着目したのはいい。だが簡単収納を謳うなら、“ワン・ツー・スリー”の3ステップでできなければだめだ。そうだな、時間にして10秒以内だ」
たった10秒で収納可能なふとん乾燥機なんて、本当にできるのだろうか──。