そして、“農業をしない農家”を支えているのが農協という「戦後最大の圧力団体」(山下氏)である。総農家数253万戸のうち、農産物を販売していない「自給的農家」は89万7000戸、兼業の方が主体の「第2種兼業農家」は95万5000戸にのぼる(いずれも2010年)。
「多くの国民は“兼業農家は農業だけでは食べていけないから仕方なく兼業している”と誤解しています。コメ作については機械化が進み、労働時間(10アールあたり)は26時間です。本職がサラリーマンで週末にしか田んぼに来なくても問題なくできる。
2012年のコメ農家平均の数値で、農業所得は約62万円ですが、農業外所得は約184万円、年金等が約211万円ある。つまり多くが兼業農家や年金生活者です。
彼らは肥料や資材を農協から割高で購入し、農外所得をJAバンクに預金します。さらに農地転用で生じたカネもJAバンクに入金します。預金残高89兆円のメガバンクである農協は、農家への住宅ローンや教育ローンまで扱うので、農家戸数は多いほうが確実に儲かる。農協の真の狙いは自給率の増加や食料の安定供給ではなく、自らの利益のために農家戸数を維持することだと言っても過言ではありません」(山下氏)
主業農家を戸数で凌駕する零細農家は農協とガッチリ結びついて構造改革に抵抗する。彼らは水田ならぬ「票田」となり、自民党政権の基盤を支える。見返りに自民党は減反や補助金という旨みを農協と零細農家に与え、予算獲得に執念を燃やす農水省にも力を貸す。 この「農政トライアングル」を壊すことは強い農業を育てる必須条件になる。
※SAPIO2014年5月号