編集者が「実は恋愛は苦手で……」と答えると、渡辺氏は「だめだよ、君」といいながら、若かりし頃、北海道のダンスホールで遊んでいた時のエピソードを笑顔で明かした。
<ある時、まず好みの女性を誘ったら『疲れていますので』と、体よく断わられたので、となりの女性に声を掛けたら、また『疲れています』。そうやって4人連続断わられ、5人目を誘ったら、頬を引っぱたかれた>
そして、恋愛に消極的な世の男性たちにこう檄を飛ばした。
よく『二兎を追うものは一兎をも得ず』というけれど、恋愛において男は二兎どころか三兎も四兎も追った方がいい>
恋愛に向かうエネルギーの強さとすがすがしさを語った渡辺氏は、その年端の行かぬ編集者に声をかけ、後日、銀座の高級クラブに連れて行き、“男の遊び方”を見せてくれた。
1本10万円以上する仏5大シャトーの赤ワインをポンと開け、新米編集者にも惜しげなくふるまう。その洒脱な雰囲気に誘われてか、渡辺氏のテーブルには女性がこぞって集まり、店内でもいっそう華やかな席となっていた。
女性への性愛に誰よりも正直で、そしてすべての人間に対して温かい大きな愛を持っている人だった。
※週刊ポスト2014年5月23日号