GPIFは厚生年金と国民年金の積立金129兆円を運用する。その規模は米国最大の公的年金基金「カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)」の約5倍にも上る。そんな世界最大級の機関投資家のカネが株式市場に向かえばどうなるか。1%買い増すだけで1兆円超の資金が流れ込むことになり、株価上昇は必至だ。
「これはアベノミクスの戦略と見事に符合する」とジャーナリストの須田慎一郎氏が指摘する。
「安倍政権では株価の動向が内閣の命運を左右するほど重視され、今や“株価連動型内閣”ともいわれている。官邸には日々株価チェックをする秘書官もいて、値動きに一喜一憂している」
株価浮上が安倍政権の至上命題である以上、株高政策が何よりも優先される。「GPIFの運用見直しに対して、厚生労働省は表向き『年金をリスクにさらしたくない』という建前だったが、官邸の強い意向もあって、本音では協力する方向で進んでいる」(須田氏)という。
だが「国債から株式へ」という政策転換が実行に移されれば、これまで国債を買ってきた人々が切り捨てられることになる。
これまで政府は続々とリタイアする団塊世代を念頭に、「国債買いましょうキャンペーン」を繰り広げてきた。その結果、個人向け国債の購入者の約7割が60歳以上となっている。
これまで財務省は「備えるなら、国債。」といった売り文句とともに、政府広報予算でAKB48や白鵬、イモトアヤコ、女子サッカーの澤穂希ら、国民的人気の高いタレントやスポーツ選手を起用したCMを流してきた。
だが、手のひらを返すかのように、今度は率先して国債放出に舵を切るというのだから、国債を買った人々にしてみれば、“国債買え買え詐欺”に引っかかったようなものである。
※週刊ポスト2014年6月6日号