ライフ

がん患者 医療費が会社の重荷だと言われ退職させられた人も

 厚生労働省の2003年の調査によれば、会社勤めをしていたがん患者の30%が依願退職し、4%が解雇されているという厳しい状況だが、がん患者の就労を支援する一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさんも、がんのために退職を余儀なくされたひとりだ。

「10年前に乳がんと診断され、治療のために8か月間休職した後、仕事に復帰しました。でも、再発防止の治療や検査などで有給休暇を使い果たしてしまい、職場からは“術前と同じ能力”を求められるので、仕事量の調節もままならなかった。結局、1年半後に退職しました。私にとっては手術で乳房を切除するよりつらい決断でしたね」(桜井さん)

 桜井さんがCSRプロジェクトを立ち上げたのは、こうした自身の経験から、同じような境遇にあるがん患者が働きやすい社会を作りたいという思いからだったという。

「がん治療にかかる高額な医療費の何割かは、会社側の健康保険が負担することになるので、会社側から『きみの医療費が会社にとって重荷になっている』と言われて退職させられた人もいます。そうした事態を避けるためでしょう、CSRプロジェクトが行った調査では、『言っても仕方がない』『理解されない』などの理由で、職場にがんの診断書を提出しなかった患者が29%いました」(桜井さん)

 がん患者は通院や検査などで出社日数が限られたり、治療による副作用で体調が悪くなり急に会社を休んだりする可能性がある。だが、だからといって会社側がそれをリスク、コストと捉えて、がんを克服したり、働きながらがんと闘おうとしたりしている人たちが仕事を失うのは、あまりにも理不尽だ。

 そんながん患者の置かれた状況を少しでも改善しようと、がんの放射線治療の夜間外来を行っているのが、江戸川病院放射線科部長の浜幸寛医師だ。実は浜さんにもがん闘病の経験がある。

「14年前、自衛隊の医官だった27才の時に脳腫瘍と診断されました。脳腫瘍は悪性や良性の区別なく、ある程度病状が進んでいると『がん』と診断され、手術・治療が必要とされます。治療のための休職は認めてもらいましたが、担当していた患者さんの引き継ぎなど、他の先生には迷惑をかけたと思います」

 その後、江戸川病院に転職し、2009年に夜間の放射線外来をスタートさせた。

「手術の場合は一度入院するだけで治療は終わりますが、放射線治療だと病院に通うため最低半日は会社を休まなければなりません。2か月間、週5日通うこともあり、これではサラリーマンは仕事を続けるのが難しい。

『会社を辞めてまで治療しなくていい』と言って、放射線治療を選びたくても選べずに、手術を選択する人がいるほどです。もし、夜間診療で放射線治療を受けられるようになれば、仕事をしながら治療を続けられる人もいると思い、夜間外来を始めたんです」(浜さん)

 浜さんによれば、夜間の来院者の100人中64人は男性、36人が女性で、男性は前立腺がん、女性は乳がんが多いという。なかには、がんであることを会社に内緒にして、夜間外来に通っている人もいるそうだ。

「40代のキャリアウーマンで、乳がんの温存療法をし、それから放射線治療を受けたかたがいます。彼女は会社で残業をこなしてから病院に来て、片道1時間以上かけて帰宅していました。『今、仕事を放り出したら、自分がこれまで努力して築いてきたキャリアが失われてしまう』と、当院に通っていることは会社には内緒にしていました」(浜さん)

※女性セブン2014年7月3日号

関連キーワード

トピックス

”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン