老親を相次いで看取り、自身も乳がんとの闘病を強いられる間、ハルノ氏は一匹として同じ者のない猫たちの亡骸を、意外なほど淡々と土に返した。両親の死にも冷静だ。父隆明氏の絶筆ともなった共著『開店休業』によれば〆切目前のその日、彼女は自宅に引き取った父の遺体にロックアイスを抱かせ、朝まで机に向かったという。

「たぶん翌日は仕事どころじゃないし、父には悪いけど、ちょっと待っててって。物書きの娘の意地ですかね。先日妹(よしもとばなな氏)と『今頃になって体に来るよね』とは話したんですけど、父自身、愛する者と別れるつらさはあっても、死ぬこと自体は何でもない、結局どこで死のうと死は自分に属してないんだから、死ぬ瞬間まで生きればいいんだと言っていたように思う。特に外猫は死を予感すると姿を消すんですよね。それが死ぬまで生きるってことかなあと、猫にはホント、教わることばかりです」

 一方能書きばかりで実情を見ない獣医免許を持った区職員の〈ペーパードライバー〉ぶりや補助金目的で避妊に手を染める悪徳保護団体など、猫たちの生態を愛情たっぷりに綴った氏の筆は、人間の営みに及ぶと途端に荒む。

〈現代社会は、衝突よりは排除、あるいは“社会正義”と銘打って行政に丸投げ、という方向に向いているようです〉
〈人の隣に寄り添って暮らす猫たちは、現代の人間同士の寛容の無さや息苦しさを映す“鏡”〉
〈のんびりした猫さんたちが多い街は、きっと人も住みやすいはずです〉

「眼前の現象を無心に分析した父と違って、私は評論家でも何でもない闇の獣だから、怒りも何も全部ぶちまけちゃうんですね(笑い)。寛容さを失くした社会の鏡として猫たちを眺めれば、特に猫好きではない方にも思うところはあると思う。たとえ嫌いな相手でも受容できる社会に私は住みたいし、このままギスギスした管理社会に憤りもしないのは、やっぱりイヤかなって」

 ちなみにD院長によれば〈動物は絶望しない〉らしい。愛する者の死を嘆き悲しむのも良くも悪くも人間ならではだが、どちらが上等かはともかく、全てを静かに受け入れる彼らの姿に学ぶことができれば、それこそ人智と呼べるのかもしれない。

【著者プロフィール】ハルノ宵子(はるの・よいこ):1957年東京生まれ。父は思想家で詩人の故・吉本隆明氏、作家・よしもとばなな氏は7つ下の妹。漫画家として『虹の王国』『アスリエル物語』『はじまりの樹』等を発表、父との共著『開店休業』などエッセイスト、イラストレーターとしても活躍。現在も実家で猫たちと暮らす。「両親が亡くなった後、引っ越しも考えたんですが、猫は土地につくというし断念。私が家についているのかなって気もします(笑い)」。157cm、A型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2014年7月4日号

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