芸能

フジの月9「HERO」 高視聴率はキムタク1人の功績ではない

 フジ月9に久々のポジティブサプライズである。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 木村拓哉主演のフジテレビ「HERO」(月曜21時)。初回視聴率は26.5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と超好発進。早々に「『半沢直樹』人気を超えるかも」と期待の声まであがっているそうです。

 最近、視聴率低迷のフジテレビ。全社員の約3分の2を異動という大改革を断行し背水の陣で「視聴率奪還」に走るさ中。さぞやこの数字に、喜びの涙を流したのでは。

 でも、単なる「ご祝儀相場」ではないと私は思います。前作「安堂ロイド」「宮本武蔵」あたりまで、たしかにキムタクはもう終わった感が漂っていました。演技はワンパターン、劣化ばかりが目立ち、あの長髪は観ててつらいと酷評されていた。「キムタクはもういいよ」感が立ちこめていた。

 けれども、「HERO」は、明らかに違いました。キムタクのキムタク感が、「快」につながっていく。キムタク独自の「キムタクテイスト」を、プラスに活かすことに成功している。「よろしこ」という、人を食った久利生検事のあの挨拶も、ちっともイヤじゃない。

 なぜ、このドラマのキムタクは、「おわこん」風に感じないのでしょうか?

 画面がめくるめく切り替わっていく、スピード感。シーンが次から次へと気持ち良く流れていくストリーミング的快楽。その流れに、上手に乗りきれているキムタク。「HERO」というドラマで、キムタクは自分が何をやればいいのか、どんなキャラなのかしっかりと把握できている。だからこそ、「プラス面」が次々に出てくる--そんな善循環かもしれません。

 ポイントは、高視聴率がキムタク一人の功績ではない、という点にあります。演出、役者、脚本の三位一体。役者の動線、台詞の順番、微妙なタイミング、劇的に見える立ち位置まで、絶妙にバランスしているドラマ作り。

 広角レンズから望遠レンズまで使った、多彩な画角の切り取り。天井から、四方から、アップにバストアップと、次々に切り替わる視点。スピーディーなカット割りと編集。制作サイドの運動神経を感じてしまう。センスと遊び心を感じてしまう。

 配役のバリエーションも、実に豊か。吉田羊の切れ味と色気がいい。北川景子の目力がいい。濱田岳のボケぶりがいい。質の違ういろいろな素材をずらり配置して見せる面白み。次々と現れる登場人物が奏でる複雑なハーモニー。

 その分、役者たちはたいへんです。一回性の舞台演技のように、タイミングを測ることを要求される。緊張感が生まれピリッとした空気が根底に流れる。だからこそ、コメディタッチが輝く。

 ストーリーは単純ですが、それがちっとも気にならない。画面作りやキャラクター造形が多彩に仕込まれているせいで、視聴者は「観る楽しみ」を味わうことができる。

 ただし、ドラマの出来がいいのと、「道徳教育とのからみ」とは別問題です。このドラマ、道徳教育推進として文科省とフジテレビがタッグを組み小・中・高校に約4万部のタイアップポスターを配布、関連イベントを開催するんだとか。

 その動機がなんとも安易。キムタク演じる久利生検事が公正・公平に人に接することから道徳教育の訴求に効果的だと見込んだそう。それならばせめて、文部官僚が久利生と同じく破れたGパンを履いて登庁し、机の前で通販マシンにてエクササイズしてみせるくらいのパフォーマンスが必要でしょう。

 ドラマが終わった後に「あの道徳教育に足をすくわれた」と言われないよう、今後の慎重なる快進撃を祈ります。

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン