だが、夫にはある役目があった。息子を保育園まで送って行くこと。朝早くに家を出てパチンコ店の開店前に子どもと並び、息子にくじを引いてもらっていい台を当てる。その後、保育園に連れて行き、また帰ってパチンコをした。好きなことをしていると、脳内麻薬のエンドルフィンが出て「痛みを忘れていた。好きなことができなければ人生は面白くない」と夫は喜んだ。そして暗いことは何一つ言わなかった。そして妻に感謝した。
再入院が決まった。
入院までの3日間、またパチンコをやりに行った。妻が心配でパチンコ屋にいる夫をのぞきに行くと、夫はパチンコ台の前でドヤ顔をした。彼の周りには、後ろを通れないほどのパチンコ玉の箱が積まれていた。なんと3日間連戦連勝。奇跡のようなお話が現実に起きたのである。
パチンコに精を出しながらも夫は、子どもの保育園の送り迎えは必ず自分でこなしていた。どんなに辛くても、暗い顔をしない人間がいることを息子に覚え込ませた。誰かの為に生きるという役目を果たしたから、彼はなんとか人生をやり遂げたのである。最後まで自分を見失なわず、その4年後、彼は亡くなった。
好きなことをしてドーパミンを出して楽しんでいい。だが、そこに誰かのために何かをすることも組み合わせて、依存症にならずに楽しく生きていきたいものである。
※週刊ポスト2014年10月3日号