〈お金は人を試す〉
〈金と神は似ている〉……。
消えた友を追う一男は、九十九の元秘書〈十和子〉や元幹部〈百瀬〉ら、莫大な財産にかえって苦しむ人々の現実を聞き、九十九が課した問いの答えを探す。
また本書は借金に引き裂かれた家族の再生物語でもある。物語の終盤、彼の妻〈万佐子〉が言う。〈あなたがお金によって奪われた大切なもの。それは“欲”よ〉〈欲は人間を狂わせる。でもそれと同時に私たちを生かしている〉〈なぜなら人は、明日を生きるために“何かを欲する”生き物だから〉
「糸井重里さんの名コピー『ほしいものがほしいわ』はバブル時代を象徴していたとも言えるし、いまの時代を予言していたとも思う。僕が二の句を継ぐとしたら『ほしいものがほしいから、お金がほしい』なんです。つまり僕らは欲しいものが大してあるわけじゃない。欲しいものはきっとお金が教えてくれると、思いこんでいるだけなんです」
死、そしてお金と、装置こそ異なるが、自分は幸福論を一貫して書いてきたと、川村氏は言う。次の題材は3つめの難題、恋愛だ。
「普通の恋愛小説ではなく、恋愛がなぜこの世界から消えたかを書こうと。最近、僕の周りに本当の恋愛をする人がいなくなったことが気になっているんです」
みんなが気づいていないけれど、実は「切実な物語」を彼はすくい上げ、私たちの形にならない無意識を作品にしてきた。その作業は「どこか宇宙を調べることと似ている。人間が宇宙を調べるのは自分自身を知りたいからだと思う」そう語る彼が知りたいのはやはり、人間そのものなのだろう。
【著者プロフィール】川村元気(かわむら・げんき):1979年横浜生まれ。上智大学文学部卒。2001年東宝入社。『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』等ヒット作を続々製作。最新作は11/29公開『寄生獣』。2010年、The Hollywood Reporters誌「Next Generation Asia」に選出され、2011年には優れた映画製作者に贈られる藤本賞を最年少で受賞。2012年、初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。山田洋次、坂本龍一ら各氏との対話集『仕事。』も好評。179cm、72kg、A型。(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年11月7日号