日本的な企業の在り方と切っても切れない「年功序列」だが、最近では年功序列を廃止する動きもみられる。大前研一氏が、中学生の孫との論争を例に挙げて従来の秩序や経験が通用しない場面は増えるであろうことを解説する。
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大手電機企業などで、年齢や勤続年数に応じて役職や給与を自動的に引き上げる「年功序列制度」を廃止し、仕事の内容や成果に応じて役職や給与を決める「成果主義」に切り替える動きが広がっている。日立製作所やパナソニックは、今秋から新たな賃金制度を導入。ソニーも来年4月から導入予定だという。
日本の大手企業は一時、年功序列から成果主義に移行したが、なかなかうまく機能しなかったため、年功序列を一部復活したという経緯がある。しかし、近年の業績不振とグローバル化の進展により、改めて今、年功序列を廃止して成果主義を導入する企業が相次いでいるのだ。
それを受けて、一部のマスコミは「年功序列は正しい」「成果主義は逆効果」などと批判している。だが、そういう報道は年功序列のぬるま湯につかっていたい中高年社員に迎合しているだけであり、そもそもこんな論争が起きること自体、日本企業の迷走ぶりを象徴していると言えるだろう。
では、いま世の中で何が起きているのか? 一言で言えば、従来の「秩序」や「経験」がすべて否定され、破壊されつつあるのだ。
私自身それを痛感したのが、中学生の孫との会話だった。たとえば過日、私の孫が学校の授業で、マルティン・ルターとジャン・カルヴァンによるキリスト教の宗教改革(プロテスタンティズム)について学んでいた。
そこで、私が知っていることを教えようとしたのだが、すでに孫はルター派とカルヴァン派の違いをはじめ様々なことをネット上の専門サイトやウィキペディアなどで調べ、ヨーロッパの生きた地図の中で自分の知識にしていたので、私の出る幕はなかった。私と話している間にも、話題をネットで確認したり、違う情報を引っ張り出したりして“対抗”してくる。実に手強いのである。