ライフ

夏の季語「イシダイ」 脂乗った晩秋から冬のほうが美味しい

 石物釣りは磯釣りのなかの王道といってよいだろう。石物はイシダイとイシガキダイを指す釣り師言葉で、イシダイは「磯の王者」とも「幻の魚」とも呼ばれ、昔から磯釣り師の究極のターゲットとされてきた。けっして数少ない魚ではないのだが、60センチを超す大型となるとなかなか釣れず、5年通い続けて1匹も釣り上げたことがないというイシダイ師さえいるほど。故に「幻」とされる。

 古くはヒサウオで、ヒサは海中の岩礁のことだから岩魚→石魚→石鯛になったのだろう。メスは7本の横縞を持つが、老成したオスは縞模様が薄れて銀色を帯びギンワサと呼ばれ、口の周辺が黒くなった個体はクチグロと呼ばれる。

 この魚は簡単に釣れてはいけないような雰囲気があり、釣れないのはあたりまえ、半日釣ってアタリがなくても意に介さないのが石物釣りの美学。スパイク付き磯足袋を履いてヘルメットを被り、竹の継ぎ竿を束ねて担ぐ伝統的イシダイ師も少なくない。

 エサにはサザエ、ウニ、トコブシ、オニヤドカリ、カニ、赤貝などを使い、ウニガラや砕いたサザエの殻やカニの脚をコマセに撒く。食い渋りにはクルマエビ、アワビ、イセエビといった豪華なエサを惜しげもなくハリに刺す。

 私自身は本格的な石物釣りは数えるほどしか経験がなく、メジナ釣りの外道にオキアミで釣った62センチが自己記録という残念な釣歴の持ち主である。

 イシダイは夏の季語にもなっているが、実際には脂の乗った晩秋から冬のほうが美味しい。シマダイやサンバソウと呼ばれる縞模様も鮮やかな30センチ前後の若魚は、片面だけ皮を削ぎ取って丸揚げするとじつに豪華な一皿になる。大物一発しか眼中にない本格派のイシダイ師には申し訳ないが、わが家では人気メニューのひとつである。

文■高木道郎(たかぎ・みちろう)1953年生まれ。フリーライターとして、釣り雑誌や単行本などの出版に携わる。北海道から沖縄、海外へも釣行。主な著書に『防波堤釣り入門』(池田書店)、『磯釣りをはじめよう』(山海堂)、『高木道郎のウキフカセ釣り入門』(主婦と生活社)など多数。

※週刊ポスト2014年12月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン