ネットオークションの普及などもあり、個人同士の商取引が増えている。しかし、商品が送られてこないなどのトラブルも後を絶たないという。もしも、個人の商取引で、トラブルが発生したらどうすればいいのか。弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
妻がSNSの知人から、10万円もする化粧品セットを紹介され、代金を払ったのに、3か月経っても商品が送られてきません。妻が問い合わせると、先方は送る意思はあると返答し、返金を求めたら、今は無理といわれたそうです。先方は、送る意思があるうちは罪に問えないと主張していますが本当ですか。
【回答】
「送る意思があるうちは罪に問えない」とは、実情に照らして誤解を招く表現です。「罪」というのは、刑事事件になる場合のことですが、その「送る意思」の意味と時期が問題です。
売り主が買い主からもらう代金を最初から他に流用するつもりで、手元に商品もなく仕入れるあてもなければ、いくら「送る」といっても、それは口先だけで不可能なのですから、実際には送る意思はなかったというべきで、立派な詐欺です。売るときに品物があっても、送りそびれているうちに自分で使ってしまえば、預かっている品物を権限なく自分の物にしたことになり、横領となります。
新品のあてがないのに「送る意思がある」といっても、通用しません。「送る意思」とは、真意でなくてはならず、3か月も履行されないのは常識的に考えて本心とは思えません。
もっとも、知人が予定していた仕入れができなくなった場合などは、詐欺には当たりません。これらの点は警察に相談してください。ネット取引による詐欺が横行しており、同じ人物から同様の被害を受けた人が他にもいれば、警察も関心を持ってくれると思います。
しかし、それだけでは代金回収という民事的な状況改善に直結しない可能性があります。その場合は、自主的に行動して現状を打破する必要があります。具体的には、すでに返金を求めていますが、証拠を残すため、内容証明郵便で債務不履行を理由として売買契約を解除する旨通知をし、代金の返却を請求してください。支払いがなければ、簡易裁判所の少額訴訟手続の利用がよいでしょう。
もし仮に、この知人が化粧品の販売会社の従業員であれば、会社は通信販売をしていることになり、特定商取引法の適用を受けます。その場合には、消費者センターに相談されることをお勧めします。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録
※週刊ポスト2014年12月19日号