ライフ

「カンガルーケア」と「完全母乳」で赤ちゃんが危ない【3】

 取材班にとっては予想された反応だったが、本連載が始まった直後から、編集部に対して、あるいはネット上で連載への批判や反論が多数展開された。取材班が重視するのは対立より対話である。過去より未来である。多くの医療関係者や親たちが、大切な赤ちゃんに良かれと思って完全母乳やカンガルーケアを施してきたことはよくわかる。しかし、それが逆に赤ちゃんの命と将来を危険にさらしていることは紛れもない事実である。

 我々はその論拠を過去2回にわたり提示し、今後も「意見」ではなく「科学的エビデンス」として紹介していく。一方で、推進派からは抽象的な論ばかりでエビデンスが出てこないのは残念なことである。あるいは推進派の中心人物たちは、これが根拠のないイメージで進められた運動であることを知っているのではないか。これから生まれてくる貴い命のために、推進派も勇気をもって、先入観なく本連載を読み進めていただきたい。

■推進派はデータを示さない

 本誌の問題提起が世論を二分するのは当然である。世の中で「良い」と信じられてきたものに異論を提示したのだから、それを推進してきた人たち、実際に実践した人たちが、簡単に「そうですか」と納得するほうがむしろ不自然だ。

 ただし、残念なのは一部の産科医たちの反応だ。ある著名な医師はネット上で、「一部の声だけを取り上げた週刊誌のデマ」と罵った。これが過去2回の記事を読んでいない中傷であることは明らかだ。前回、前々回記事では久保田史郎医師の「一部の声」を紹介したのではない。久保田氏の問題提起に対し、他の多くの専門医の賛同する意見を掲載し、それを証明する国内外の論文や調査データも示した。そして、「完全母乳」「カンガルーケア」によって我が子を不幸にしてしまった親たちの後悔の念、それを推進していた助産師の「間違っていた」という内部告発もレポートした。今後は推進派の意見や考え方も積極的に取材するつもりだ。

 編集部には医療関係者からの声も届いている。こちらは思った以上に記事に賛同する意見が多かった。

「ずっと良くないと思っていたけれど、助産師さんに逆らえずにやってきた。よく書いてくれた」

「久保田医師と同じ考えの医師もたくさんいるが、推進派の“声が大きい”ため、面倒に巻き込まれたくなくて黙ってしまっている」

 いずれも現役看護師から寄せられた意見である。

 もちろん本誌は、すべての結論が出たと断じるつもりもない。医療であれ社会政策であれ、100%正しいものも100%間違っているものも基本的にはないからである。メリットとデメリットを比較し、科学的で開かれた論議のなかで社会的コンセンサスを決めていくべきものだし、情報が公開されたうえで、主流派とは違う選択をする個人がいても、それは悪いことではないかもしれない。

 ただし、仮にも専門家とされる人たちが、科学的根拠も示さずに久保田氏の問題提起を罵倒することは卑怯である。今後の連載で明らかにする機会があると思うが、推進派たちは異論に対し、なんら科学的データを示すことなく「とにかく我々が正しい」と言い続けてきたのである。完全母乳やカンガルーケアで成功した母子がどれだけいても、それは証拠にはならない。繰り返しになるが、統計的データを集めてメリットとデメリットを比較して初めて論議の土台ができる。

 久保田氏はそのために30年間、1万4000人のデータを取り続けた。そのうえで完全母乳やカンガルーケアはメリットよりデメリットが大きいという結論に達した。その間、推進派に対して、赤ちゃんの血糖値や体温、その後の生育についての調査をするよう何度も提案してきたが、推進派は応じなかった。真実を突き止めることに消極的だったと見られても仕方ない対応だ。

 なぜ推進派が頑ななのかは大切なテーマなので、ここで論じるには紙数が足りない。しかし、素人がわかることだけでも、推進派の論には疑問点が多い。

 例えば、久保田氏がこだわってきた血糖値や脱水について。どんな医師でも看護師、助産師でも、赤ちゃんの血糖値が下がらないケースと下がるケースで、どちらが好ましいかに異論はあるまい。重症黄疸に至るほどの栄養不足や脱水状態が良いともいわないはずだ。ならば、母親から与えられる栄養が少なければ人工乳で補い、水分が足りなければ与えることがなぜいけないのか、推進派はその不自然極まりない論理を明確な証拠をもって説明すべきである。乳の出る量も時期も母親によって大きく異なるのに、一律に「人工乳や糖水は与えるべきではない」と指導することが非科学的だと思うのは取材班だけではないだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
沖縄県那覇市の「未成年バー」で
《震える手に泳ぐ視線…未成年衝撃画像》ゾンビタバコ、大麻、コカインが蔓延する「未成年バー」の実態とは 少年は「あれはヤバい。吸ったら終わり」と証言
NEWSポストセブン
米ルイジアナ州で12歳の少年がワニに襲われ死亡した事件が起きた(Facebook /ワニの写真はサンプルです)
《米・12歳少年がワニに襲われ死亡》発見時に「ワニが少年を隠そうとしていた」…背景には4児ママによる“悪辣な虐待”「生後3か月に暴行して脳に損傷」「新生児からコカイン反応」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」